なんとかきり丸くんと金吾くんを説得した後、私たち一行はすぐさま忍術学園へ向かった。
生憎私は狼の全速力についていけるほどの脚力は持ち合わせていないので、格別速かったというわけではないが、
それでも乱太郎くんの傷に障らない程度の速度で走っていた。
狼に跨った少年たちは必死にしがみ付いていたが、誰一人振り落とされるようなことはなかった。
さすが忍たまといったところか。(恐らく)左足を捻挫しているであろう庄左ヱ門くんは時たま
顔をしかめていたが、そこは我慢してもらう他ない。一刻も早く忍術学園に着かないと。
山のふもとまで降り、あと暫く直進すれば学園につくということで速度を落とした。
万が一にも人に遭遇したら危ないからだ。本当は狼もここで帰らせて、庄左ヱ門くんは誰かにおぶって
もらえばいいんだろうが生憎誰もそんな気力も体力もなさそうだ。まあ、忍術学園といっても
街中ではなくこれ自体も山間にあるのだろうから、滅多なことがない限り一般人はいないだろう。
学園につくまでの間、少し話を聞いたところによると六人は「おつかい」の途中だったらしい。
学園長からおつかい(恐らくは、忍務のままごとのようなものだろう)を出され、とあるお屋敷まで
手紙を届けに行っていたらしい。その帰り道、ちょっとした寄り道のつもりがそうではなくなっていき、
あの事態に陥っていたというわけだ。どうやら彼らが所属しているは組とやらは、ハプニングを起こしやすいだとか。
しばらく話していると、庄左ヱ門くんがふと前方を指差した。なるほど、立派な建物だ。よく組頭から 話は聞いてはいるが、初めて来るな。立ち止まり狼たちを伏せさせ、少年たちを降ろす。狼たちを 一撫でし「ご苦労」と言うと満足そうに鼻を鳴らし、また森の奥深くへ狼たちは走っていった。 あとで褒美をやらないとなぁ。庄左ヱ門くんは金吾くんに支えられ、歩き出す。きり丸くん、しんべヱくん、 喜三太くんが走り出し、門を叩き「開けてくださいー!一年は組です!」と叫ぶ。おいおい、忍者が そんな大きな声で門叩いていいの。間を置かないで、「はぁい」となんとも間延びした声が聞こえてきた。 それと共に扉が開く。同時に顔を出したのは、一人の青年。胸元に書いてある事務員という文字。
小松田さんそれどころじゃないんすよぉ!!というきり丸くんの怒号を聞きながら、差し出された筆に
さらさらと名前を書く。別に本名でもいいだろう。というか、上に「雑渡昆奈門」って書いてあるんですけど。
組頭どんだけ入り浸ってるの。、と書き終えると「ありがとうございまぁす!」とこれまたなんとも
暢気な声が返ってきた。それでいいのか忍術学園。まあ危害は加えるつもりはこれっぽっちもないのだけれど。
事務員の小松田さんとやらを背に、庄左ヱ門くんたちのあとを追う。
しばらく早歩きをして保健室とやらにたどり着く。入門表にサインをやらをしたものの、こうも堂々と
知らない敷地を出歩くのは不思議な気分だ。思考をほかへ飛ばしていると、保健室にたどり着いたや否や
扉を勢いよく開けるきり丸くんが叫んだ。ノックしないのね。
きり丸くんが勢いよく扉をあけ、保健室に入ったはいいものの早速予想通りの展開がきた。 善法寺先輩、とよばれた深緑の装束を身に纏っている少年は私をみかけるや否や即座に警戒態勢に入った。 上級生かな、反応もはやい。だけど、その判断は間違っているかな。殺気はとばすな、殺気は。 この子たちに毒でしょうに。私は彼の目線を無視し、ずかずかと足を進める。そしてここに来た途端に 金吾くんあたりが敷いたのだろう布団に、乱太郎くんを寝かす。
さっきまでの殺意はとうに収め、てきぱきと指示を出す善法寺くんとやら。瞬時に的確な判断をしている。 そして、それらに従い(恐らく)下級生たちこちらもてきぱきと動き出す。さて、私は無事に彼らを 送り届けたのだし、もう心配はないだろう。帰るかな、ととりあえず部屋から出ようと踵を返そうとしたとき 「あの」と呼び止められた。善法寺くんとやらだ。しばらくこちらを見ていたが、ほどなくして 「ありがとうございました」と聞こえた。別にたいしたことはしてないのだけれども。どういたしまして、 と口には出さず手をひらひらと振り、部屋をあとにする。
おっとまたもやこのパターン。目の前には袋槍を構えた少年。ずいぶん隈があるな、お疲れですか。 なんて言ってる場合じゃない。ふと視線を巡らせてみると、これまた完全に包囲されてた。 鉄双節棍を構えたつり目の少年、縄標を回す強面の少年、苦無を構え獣のような気配の少年、そして それらの後ろに構えているのは色白の美少年だ。そして彼らの装束は深緑。 もしかしなくても、上級生ご一行のお出迎えですか。完全に気を抜いていた。これくらい気配読めただろうに。 それぞれ得意武器なんだろうけど、こんな狭いところで振り回すおつもりか。 目線は少年たちから外さないまま、そっと腰に手をあてる。が、いつもの感触がそこにない。
ということは、苦無も今現在持ち合わせてはいない。他にも武器というか暗器は持っていることは持っているが、 こんな至近距離で手裏剣なんどどう使えと。撒き菱なんてもっての他だ。煙幕使うか?いやいや、 保健室に影響が出たらだめだ。火薬なんてもっとだめだ。己の身しか、体術しかないということか。 組頭の入り浸っているところだし、なるべく事は穏便に済ませたい。が、あちらさんがそうはさせてくれない といったところか。仕方なしに、じりと左足を半歩さげる。ぐ、っと力を込めた時だった。