私は走っていた。それはもう、メ○スの如く。いや、半裸ではないけども。
まあ、走るといっても正確には早歩き…競歩といったところか。
やっと終わった。
城下町の、ちょっとやっかいな喧嘩を私は収めに行ったはずだ。
ああ、そのはずだったんだ。
だけど、ちょっとどころではなく、か・な・りやっかいで…!!
くそ、なんで真昼間からあんなドロドロしてんだ…っ!
出羽はまだ治安悪いのか?!いや、あれが特例か……。
それにしても、あの娘さんはしつこかった…!こっちは早く城に帰りたかったっていうのに。
だが、人の気持ちを無下にするわけにもいかなかったんだ…。
だが、ここまで時間がかかるとは…!!
もう私の腹は有り得ないほどに膨れている。
もう夕餉いらないんじゃないか?
色々考えながら私は足を速める。
家臣や女中さんたちが驚くが、そんなの気にしない。
というか、気にしてられないんだよ!
一刻も早く、天守閣へ向かわなければ…!
家臣から真田が到着した、という連絡を受けかなり刻が経った。
もう天守閣にはとっくに着き、話を進めているだろう。
間に合ってくれ…っ!
てか、間に合えぇぇぇええ!
もっと早く動け、私の足ぃぃぃいいいい!!!!
廊下を進み、階段を上がりを繰り返しやっとの思いで部屋の前についた。
部屋には複数の気配。
天井裏にも、鵠以外の気配が感じられる…。
この先に虎若子殿が居る…!
やばい、少し緊張してきた。郁はきちんとやっただろうか?
手が僅かに震えている。
いや、私がしっかりしなくてどうする…!!
なんとか自分を叱咤し、襖の前に座る。
「失礼する。」
襖をスっと開ける。
郁の返事を聞かずに開けたが…まあ、大丈夫だろう。うん、
多分。
やばいよ、自分テンパりすぎでしょ・・・!
襖を開けば案の定、虎若子殿は居た。
いや、当たり前なんだけど…なんか、その、空気が想像してたものとは違った。
ふと、自分の主を見やる。
真剣な顔つき、凛とした目つき…そんな様子に安堵する。
が、その安堵も瞬時に呆れに変わる。
郁は私を見た瞬間、本当…情けない顔になった。SOS、か。
すばやく立ち上がり、郁の横…より少し後ろに座す。
すると、心なしか郁の顔つき…いや雰囲気が明るくなった。
単純な子・・・!虎若子殿に感づかれたらどうするのオイ。
我が主ながら先が思いやられる…。やばい、頭痛が…。
私が思考にふっけていると、突如郁が声を発する。
「真田殿、こちら我が出羽国の宰相です。」
おお、ちゃんと紹介してくれた。
念の為にマニュアル渡しといて良かったかな…。
っと、こんなこと思ってる場合じゃない。
私はすぐさま頭を垂れ、言葉を発する。
「只今御紹介に預かりました、天白 郁が忠臣・出羽国が宰相、 と申します。
以後お見知りおきを。」
「ご存知かと思うが、某は真田幸村と申す。」
「ええ、貴殿のことはよく耳にしております。紅蓮の鬼…虎若子殿。」
「恐縮にござりまする。某も貴殿のことは聞いておりまする、戦場の鬼殿!」
「戦場の鬼など…恐れ多い。自分は只、お頭の為に動いてるだけにござりますれば。」
戦場の鬼なんて…とんでもない。
私は鬼なんかになれやしない…前、鵠にも言われたし。
お前は人に甘い、って・・・これは良くない事だよなあ・・・。
っと、こんなこと話してる場合じゃなかった。
「して、虎若子殿。本日はやはり…。」
「うむ、同盟の話でござりまする。単刀直入に、甲斐と同盟を結んでいただきたく。」
虎若子殿が、そりゃーもう、凄い真剣な目つきでこっちを見る。
紅い覇気とは、よく言ったものだ。
ま、そりゃそうだよね。
ふと自分の主の方を見やる。
ちょ、
そんな泣きそうな顔してコッチ見ないでって!
虎若子殿が感づいたらどうする…!
私は、ハァと溜息を(虎若子殿に気づかれないように)つくと、
郁に少し近づき、小声で声をかける。
(さて、お頭どうすんの?)
(どうするって、どうすればいいの?!)
本当にこの人国主か。少し頭痛してきた…。
気を取りなおして、私は郁に問う。
どうするかじゃなくて、どうしたいか、が肝心なんだよね。
(お頭はどうしたいの、同盟結びたいの?)
(う、うん…)
(じゃ、それ言えば良いよ)
郁が幸村と見合う。
顔を上げ、しっかりと相手を見据えている…うん、やればできるじゃん。
いつもこの調子だと助かるのになあ…
なんて思ったのは秘密で。
「此度の同盟、甲斐・出羽ともに利があると見る。」
「!」
「と、共に。信玄公は、情に厚く素晴らしき御仁と聞く。
また、民を思い、万民の幸せを願うと。それはまた、出羽も同じ。」
「とっ、ということは…っ!」
「同盟に応じよう。」
「あ、有り難くっ!!!」
虎若子殿が、(物凄い勢いで)頭を垂れる。
あの、なんかゴスっ!とかいったんですけど。
自慢じゃないけど、うちの城そんな丈夫じゃないんだよね…!
にしても、郁…成長したな…。
ちゃんとやればやるんだよ…あの子は…。
ただ、普段やらないだけで…。
いや、それが一番困るんだけどね。
っと。
こんなこと思ってる場合じゃないわ。
私は虎若子殿と向き直り、言葉を紡ぐ。
「虎若子殿、同盟承諾の文を書くので、しばしお待ちくだされ。」
「う、うむ!」
「ほら、お頭。」
「お、おけ!おけおけ!」
…どもりすぎ。
虎若子殿といえば、「桶?」と小首をかしげている。・・・愛らしい方だ。
郁が急いで机と向き合い、私は紙と筆を渡す。
墨を用意すれば、すらすらと文を書き出す郁。
これでとりあえず一安心、かな。
あとはこれを虎若子殿が信玄公に渡し、仮同盟が成立。
後日、こっちが甲斐に向かい国主同士で話せば良いかな。
どうやら郁は文を書き終えたらしく、文末に印を押す。
そしてそれをたたみ、前には信玄殿・後ろには天白、と記す。
それを確認し、私はその文を手に取る。
「では、虎若子殿。こちらの文を信玄公へ渡していただきたく。」
「うむ。」
「後日、そちらへ窺いますれば。その時、同盟の本成立となります。」
「分かり申した!」
文を渡すと、それはもう元気な声で返事してくれました。
…獣耳と尻尾が見えたのは幻覚かな。私、疲れてるもんね、うん。
ま、これで終了、っと。
ふと、郁を見てみる。
おいおい、安心しきった顔してくれてるよ…うん、いいけどね。
と、忘れるとこだった。
「虎若子殿、今日はここへ泊まって行かれては?」
「?!し、しかし…」
…泊まるつもりはなかったのかな。
このまま帰るって…疲労してるだろうに。
甲斐から出羽って…結構距離あるよね?馬でも相当疲れるだろう。
それに、馬自身も休まないと疲労が取れないだろうに。
このまま帰すほど、私たちも鬼じゃない。
「甲斐からは距離がありますれば。こちらは問題ありませぬ故、どうぞ。
まだ夕餉までには時間があります、城や城下を見て回っていかれても結構ですよ。」
「かっ、忝い!!!」
言葉と共に、物凄い勢いで頭を垂れる虎若子殿。
ちょ、
2度目ぇぇぇぇええええ!
頭が、地面に、ゴス!ってぇぇぇぇえええええ!!!
感動してくれてんのは嬉しいが、城壊れるぅぅううううう!
虎若子殿は、涙ながら「なんと懐の広き御仁方…っ!」などと呟いている。
腕を組み、考える。
さーて、今日はかなり沢山やることがあるな…。・・・
夜、寝る暇あるかなあ。
ま、なんとかなる・・・かな。
まず、女中さんに伝えて宴の準備してもらわないと。
と、郁の方を見てみると何時の間にか鵠が居た。
いつ降りてきたんだ…。
で、あと一人だね。
「そこの武田の忍殿、出てきたらどうです?」
「「!!」」
「辰川殿、気づかれておられたか…。」
「これでも武人なので…。」
一応、気配には敏感な方なんでね。
虎若子殿はしきりに感心していて、「やはり今度、手合わせを…。」など
物騒な言葉が聞こえたが、うん、無視だ。私は聞いていない。
って、なに郁まで感心してんの?!
気づいてなかった、今初めて知った、って顔しないでよ…。
先が思いやられるなあ、ホント…。
で、忍殿は出てくる気配ないなあ…。
武田の忍っていったら、もうあの人しか居ないだろうけど。あの燈色の髪が眩しい、
巷でオカンと謳われている人。
一応、姿見せて欲しいなあ…。ここ自国なのでね。
そこで私がもう一言おうとしたら、虎若子殿がその声で遮った。
「佐助、もう出てこい。天白殿がどのような御仁かは、もう分かっただろう。」
ああ、成るほど。そう思われてたわけね・・・。
まあ、そうなるよね。得体が知れない国の城なんて、何が起こるか分からないよな。
そら警戒するわ。私もすると思うし。
で、主の声に観念したのかその忍は颯爽と姿を現した。
「はいはいーっと。もう、ホント困るよ。」
「む?何が困るのだ?」
「何でもありませーん。」
…思ってた以上に、生で見ると…派手だな。
その忍は、私の視線に気づいたのかコッチを見やると…笑った。
なんていうか、あまりよろしくない笑みだな。
目が笑ってなーい…。
全員(?)揃ったとこで、郁が大きなはつらつとした声で言った。
「じゃ、まあ、これから宜しくね!!!」
…本性出しちゃったよ。
ま、いいか。
→
(あ、虎若子殿。甘味はお好きですか?)
(!!う、うむ!)
(良かった。城下にある、天下一品の甘味屋から団子を取り寄せたんですが…)
(な、なんとっ!)
(そうですね、茶と共にお出ししましょう)
(か、忝いっ!!!)
(あ、ウチも食べる!ね、鵠も食べるよねっ!)
(うん、無論)
(よっし、じゃあユッキ‐!ともに縁側へ行きましょうぞっ!)
(うむ!!天白殿!)
((いつのまにか仲良しに…))
((やっぱこの宰相…食えないな))
いや、なんか本当・・・夢変換あんまり意味なくね?とか思ってます
すいません
夢主の口調が迷子・・・!
あ、気づかれているお嬢様もいらっしゃるとは思いますが
夢主は認めた相手しか名前呼びしません(^ω^ )基本、渾名に殿付け。
さー、これから夢っぽくしてくぞう(遠い目
2012.4.4