翌日、朝方。
日輪はまだ低く、少しだけ顔を覗かせているだけ。
辺りはまだ薄暗いのにも関わらず、天木城では何人もの人々が動いていた。
朝餉の用意をする女中達、鍛錬を行う家臣達などなど。
そして、城のとある一角。
部屋には、まだ布団の中で夢の世界の人物が。
である。
その眠りは深く、気持ちよさそうに眠っていた。
昨夜は、同盟が仮とはいえ成立し、また幸村たちの歓迎と言うことで夜更けまで宴をしていたのだ。
後片付けは女中がするのだが、何故か宰相のもしていた。
それに加え、同盟の件で色々と片付けなければならない問題が山積み。
自然とは夜更かしをする羽目になったのであった。
もともと低血圧で朝には滅法弱いだが、今朝は昨夜の夜更かしで、更に深い眠りについている…という訳だ。
だが、そんなを中々安眠には誘ってくれない神。
(・・・人の気配)
一つの気配を感じる。
感じると共に、布団から跳ね起き頭元に置いてあった愛刀を手に取る。
そしてそのまま、庭に繋がる襖(もとい障子)を勢い良く開けた。
その行動は、恐ろしいまでの速さである。
それはもう、スッパーンという効果音だけでは言い表せきれないほどの。
「…。」
勢い良く開けたはいいものの、その先には何もない。
雀がさえずり、遠くから竹刀がぶつかる音・鍛錬中の家臣たちの声が聞こえるだけ。
見渡す限りは、海の視界には誰一人居ない。
の部屋前の庭というだけもあり、人っ子一人おらず、物音一つもしない。
暫く辺りを黙って見まわしていただったが、やがてその口をそれとなく開く。
「…朝っぱらから、何の御用でしょう。」
「あらー、やっぱ気づいてた?」
刹那、の目の前にある人物が現れた。そう、
逆さまになって。
言わずもがな、その人物とは幸村の忍・猿飛佐助である。
現在、天井からぶら下がっているのだ。
の問いかけに答える声は調子は良いものの、その顔は笑っていない。
そんな佐助に対し、は一つ溜息をつくと部屋に戻っていく。
それを見やり、床に華麗に着地するとについて行き部屋に何気なく入ってゆく佐助。
そして、ちゃっかりと壁に寄りかかるとに声をかけるのだった。
「やっぱアンタって、あの忍以上に食えないな。」
「忍?」
「あの黒ずくめの、片目隠してるヒト。いるでしょ?」
「ああ、鵠ね。…まあ、鵠は読めないですからねえ。」
そして、佐助の問いに答える。
答えるとは言っても、それとなく本題からずらしているのだが。
先ほどまで自分が寝ていた布団をたたみ、押入れに押し込む。
そして、先ほどまで手にしていた愛刀を定位置である壁にかける。
そんな、自分を見ずに適当に受け答えするに佐助は軽い苛つきを覚えるのだ。
(最も自身は、至極真面目に返答しているつもりなのだが)
そして、そんな佐助の内を知る由もなく、は今までの佐助の心情をぶち壊すかのような発言をしたのだった。
*
…今、何て言ったのアンタ。
今、俺様は他国である出羽に居る。もっと詳しく言うと、その出羽の国主である天白の嬢さんの城ン中。
そんでもっと詳しく言うと、その城の一角にある宰相の部屋。
そもそも、なんで出羽に居るかって話なんだけど。
大将が出羽と同盟を結ぶって言って、真田の旦那がそのお使い…ってことになって。
で、俺はその護衛みたいな感じだったんだけど。
同盟を結ぶ、って言っても相手は素性も知れない敵国。
何時・何処で・何が起こるか知ったもんじゃない。
俺は神経を研ぎ澄まして、すんごい気を張って行ったわけ。
だってさ、出羽って本当情報ないんだよねー。
俺様直々だったり、才蔵とか使っても何一つ情報は得られなかった。
まあ、いわゆる門前払い…みたいな感じ。
まず昨日も会ったけど、鵠とかいう黒ずくめの忍。
あと、それに対照的な…鵠って奴にそっくりな白い忍。そんで、そいつら率いる忍隊。
これがまた強いってゆーか、やっかいってゆーか…。
それでさ、噂によれば、よ?
忍にそう言う風に指令出してんのも、情報操作してんのも出羽の宰相らしい。
政を任されてるのも、裏仕事してんのも宰相らしい、って…どういうことよ?
で、その素性を調べると共に護衛も兼ねてこの俺様が旦那についていったわけよ。
昨日は一応、何事もなく仮の同盟が成立した。
襲撃なんて動きは無かったし、とりあえずは一安心。天白の嬢さんが、どういう人柄かも大方分かったしね。
けど、やっぱ宰相が食えなかった。
俺様さ、一応気配消して天井裏に居たんだけど…宰相はその気配に気づいてた。
何気なく同盟の話を進めていたのは宰相だったし、
あの国主…天白の嬢さんは俺の気配に気づいてなかった。
いまいち考えが読めなくて、気配には(異常じゃない?って思うくらいに)敏感だし、
そんで戦場では、「戦場の鬼」なんて言われてるんだから…
油断なんてできたもんじゃない。
その日の夜、同盟の仮成立のお祝いと俺達の歓迎を兼ねた宴が開かれた。
天白の家臣達が集まって、大広間でどんちゃん騒ぎ。
それに旦那も乗り気なんだから…こっちの気も知らないで…。毒とかは盛ってなかったから、大丈夫だったけど。
その宴と、振るわれた茶菓子・団子に感銘を受けて、見まわった城下町が凄く良い雰囲気だったりして、
旦那はすっかり心を許しちまってる。
だけど、俺様はそう行くわけにはいかない。
ってことで、今朝は宰相の部屋に潜入。
今回も気配を消した筈だったんだけど、やっぱり感づかれて。
凄い勢いで飛び起きて、刀を手にとって、障子をスッパ‐ンと開かれた。
その動作の速さといったら…
忍顔負けだったんじゃない?
その後、特別声を荒げることもなく、面倒事に関わってしまった、とでもいうかのような声色で俺に声をかけてきた。
まあ姿隠すだけ無駄だし俺は姿を見せたんだけど。
これまた面倒くさそうな顔してて、溜息吐いて部屋に戻っていったんだよ?!
俺様、こんな宰相初めてなんですけど…。
そんで、そのまま宰相のあとについていって部屋に入っても何も言わないし
あろうことか、何事も無かったかのように布団を畳み始めたんだよ?!そのまま刀もしまっちゃうし…。
もしかして、俺様…相手にもされてないわけ?
で、俺が話しかければ布団をたたみながら、それとなく話をずらされる。
ホントなんなの…。
それで、今に至るんだけど。
俺は壁に寄りかかり、じっと宰相を見る。
布団を押入れに入れ終われば、俺のほうを見てくる。
何だと思って構えてたら、少し困ったように宰相は口を開いた。
「あの、出ていってくれませんかね。」
「…なんで?」
俺はアンタの素性を調べるために来てるんだ。
出て行けって言われて、素直に「はい、出て行きます」ってなるわけないじゃん。
そんで、俺がそう言えば本当に宰相は困ったようにする。
ふーん、そんな顔もするんだ…。
で、お次はどんな言葉が来るんだろうと身構えていたら…
その口から紡がれる言葉は予想外で、俺の思考などぶち壊すかのようだった。
「いや、なんでって…着替えたいから?」
「…は?」
「いや、だから着替えたいんですけど。」
着替えたい?
着替えれば良いジャン…
ああ、なに?
「アンタにも、羞恥心とかあるんだ?」
「…私のこと、なんだと思ってるんですか…。」
俺がそう言えば、困ったような顔をしてそう言う宰相。
心なしか、その頬は僅かだけど…赤い気がする。
…そんな顔もできるんだ。
ま、一応宰相サンも女子だからね、俺は素直に出て行く。出て行くって言っても、天井裏に移るだけだけどね。
宰相はそれを確認したのか、ごそごそと着替え始める。
…天井裏に居るのは大丈夫なわけ?
ま、そんなこんなで次に宰相に会ったのは大広間。朝餉の時間だった。
真っ黒な着流しから、紺色の袴になっていた。
少し癖毛らしい茶色がかった髪の毛は、ピョコとはねている。
天白の嬢さんの面倒を見たり、女中をさり気なく手伝ったり、昨日の宴の様子からして…世話焼きなのかな。
そういえば、旦那にいいとこの茶菓子とか茶とか出してくれたり。
家臣の相談に乗ってたりもしてたな。
…ちょっとだけ、今までとは違う興味が沸いてきた、かな。
→
(ああ、お頭。口元にご飯粒つけて・・・)
(ふへ?ほんほに?)
(もう、口の中のもの飲み込んでから喋りなさい・・・)
(うおおおお!この厚焼き玉子、まっこと美味でござるうううううう)
(ちょっと旦那!食事中に叫ばない!!)
((・・・))
(・・・お互い苦労しますね)
(いやー、
ホントに・・・あはー)
というわけで、今回は佐助とのお話でしたっ・・・!
やっぱり最初は佐助に警戒させたいですよね(←)。で、あることをきっかけに
めっちゃ懐かせたい。
これで佐助はフレンドリーになるはず・・・!←
さー、これからどんどん絡ませるぞー!
2012.4.7