「殿、真田様がお見えになりましたでございます。」
「う、うむ、お通ししろ。」
「はっ。」
郁のぎこちない言葉に、女中がスっと襖を静かに開ける。
それと共に、女中の姿が現れる。
「失礼致す。」
同時にもうひとつの声。
一人の紅い武人…真田幸村が部屋に入る。
その顔は真剣で、郁の知る幸村のものではなかった。
郁が坐に座り直すと共に、幸村は郁から幾らか離れた場所にある座布団に座す。
この微妙な距離が、郁には苦しくて仕方が無い。
(うわあああああ、幸村だよ!来ちゃったよ!)
客人の手前、落ち着いてみえるように見て取れるが・…実際、そうでもなかった。
顔こそ微笑を浮かべているが、背を伝う汗が半端無い。
あれ、今日こんな暑かったっけ…?と思うほど、だ。
そして、必死にの早急なる帰還を願うのだった…。
そんな殿の心中を知る由も無く、幸村をここまで連れてきた女中が
黙って頭を垂れ、襖を閉じ去る。
部屋に客人と二人きり。
これだけで郁の心臓を爆発させるには充分である。
緊張はMAX、心の臓がこれでもかというほどに煩い。
(ひぃ〜!、早く帰ってきてェェェェェ!!!)
一方、幸村はというと…少し吃驚していた。
出羽の国主が若くて、しかも女子であるということはよく耳にしていた。
だが、ここまで若かったとは…。
殆ど自分と同じ歳じゃないだろうか、いや下手をすると自分より年下では…?と心底思っていた。
本当にこの国は大丈夫なのか?
この国と同盟を結ぶ意味は?利は?
何故、お舘様は斯様な国と同盟を??
などなど…様々な疑問が幸村の頭に浮かぶ。
そして郁を(これでもかというほど)凝視してしまうのだった…。
(なんか、めっちゃ見られてるうううううう!!)
(油断してはならぬぞ、真田源次郎幸村…っ!)
このとき、本当に見られすぎて穴があくのでは…!
と本気で郁が思ったとか思ってないとか。
かなりシリアスな場面ではあるのだが、どうにも笑えてくる。
そして一刻でも早くこの場を終わらせるため、(というか気まずかった為)
郁はその重たい口を開いた。
「…先程は、出迎えれず申し訳無い。」
「!!い、いえ。其方もお忙しいのだろう。此方こそ、急に訊ねて申し訳無い。」
肩を大きく揺らす幸村。
同盟を結ぼうとした相手、ましてや国主にそのような言葉をかけられるとは思いもしなかったのであろう。
驚きながらも、その郁の言葉に言葉を返す。
と、共に目を少々見張る。
郁の顔が、先刻より幾らか凛としたからだ。
腹をくくったのか、はたまた本調子が出てきたのか…
その目は透き通っており、相手方の幸村をしかと瞳に映している。
「改めまして、出羽が国主・天白 郁と申します。以後よしなに。
此度は、遠路遥々よく来られました。大したお持て成しはできませんが、
ごゆっくりしていってください。」
「!!!」
郁の言動にまたもや大きく肩を揺らす幸村。
郁は、遠路遥々よく来られた、大した持て成しはできないがゆっくり、
と言っただけなのだが、幸村を驚かせるには十二分だった。
普通、国主は使者だけに、こんな謙った態度は見せない。
国主たる者、常に威厳というものを見せねばならないのだ。
だが、郁は違った。
おまけに、軽く頭を垂れ、幸村に向けて薄い笑みを向けたのだった。
無論、幸村は今の今まで斯様な国主に出会ったことが無い。
いや、それが普通なのだろうが…。
大抵の者ならば、国主がこんな様でどうする!と
呆れや怒りなどの感情を持つだろう…
が、幸村は違った。
(某は今まで斯様な御仁に出会った事がない…なんと懐の広き御仁!)
郁の言動に心を打たれたのだ。
先程までの疑いの念などどこか遠く果てに飛んで行き、その心は、郁への尊敬と好意の念で埋まっていた。
そして、すぐさま姿勢を正し、頭を垂れたのだった。
「お気持ち有り難く。某、武田信玄が忠臣・真田源次郎幸村と申す。
此度は、お舘様の御意志により、天白殿にお話を伺いたく候。」
「その、話…とは、」
郁が緊迫したような声色で幸村に問う。
少しの沈黙の後、幸村はゆっくりとした口調で言葉を紡いだ。
「もう察しておられるやもしれませぬが、同盟の件でござりまする。」
*
(…郁も随分と成長したなあ…)
一方、屋根裏では。
忍の鵠が、郁と幸村の様子を見ていた。
随分としっかりとした主の様子に驚かされる。
いつもの郁とはあきらかに違うもので、正直(かなり)驚いた。
海の言う通り、やっぱやればできるんじゃん…なんて思ってしまうところは
まさに子供を見守る親の心境そのものである。
と、我が主の成長の喜びに浸っていると・・・・
ひとつの気配が近づく。
「あらー?アンタは何時ぞやの…忍じゃないの。」
「…俺は何も聞いていない見ていない。」
「ちょっとー、酷くない?それー。俺様傷ついちゃうー。」
そう言いながらも全く持って傷ついているように見えない声の調子。
その声の主は、颯爽と鵠の隣に現る。
猿飛佐助。
先程、城門付近で主である幸村と別行動に移り幸村より先に城へ潜入したはずである忍である。
蜜柑色の髪、深緑のフェイスペイント、迷彩柄の服。
全く忍んでいない忍代表。
(ちなみに、鵠も忍んでいない忍である)
そして、その手には冷たい色の苦無が握られており、
なおかつその苦無の先は、鵠の首元へ向けられていた。
「いや〜、この城ちょーっと罠多くない?時間かかっちゃったよ。」
苦無を握っている手に少しばかり、力が入る。
それと同時に、鵠の首元へ当てられている苦無が肌に食い込む。
つう、と一筋の血が首を伝うが、両者気に留める様子は見られない。
無表情のまま鵠に苦無をつきつける佐助。
一方、鵠はというと決して動じない。(いや、というか首元に苦無を突きつけられてること自体気づいているのだろうか?)
そして、淡々とした口調で言葉を紡いだ。
「別に、俺は彼方の主を襲撃しようとか思ってないんで。」
「!!」
「そこんとこ、宜しく。俺は主が心配なだけ。」
「…そんなの、信じられると思ってンの?」
鵠の言葉に、佐助の顔が一層険しくなる。
いや、笑っているのだが…なんせ目が笑っていない。完璧、据わってる。
声は低く、心の臓を鷲掴みにするかのような心地。
だが、鵠がそんなものに動揺する訳も無く。
内心では、キレたの方がこわーい、なんて思っているなど誰も思わないだろう。
無表情なまま、ただただ淡々と続けた。
「まあ、信じるか信じないかは自由だよ。」
「…。」
「とりあえず、苦無どかせてもらえません?何気に痛いんだよね。」
よかった、ちゃんと苦無を当てられていることは気づいていたらしい。
全く緊張感の欠片も感じさせない声色。
本当に武器の矛先を当てられているのだろうか…。
そんな鵠に、佐助は当然目を見張るわけで。
しばらくは黙っていたが、突如ふっきれたかのように苦無を外した。
「…あー、もう。調子狂うよ、ホント。」
「誉め言葉として受け取っときます。」
あくまで姿勢を崩さない鵠。
そんな鵠に一つ溜息をつくと、佐助は鵠の横に座りなおした。
一方、鵠は天井板に寝そべり、ほんの少しずらした天井板の間から、郁たちの様子を窺っていた。
と、ある足音を二人が察知する。
「誰か来る…かなり急いだ足取りだな。」
耳をすます佐助。全神経を足音に集中させる。
ここは一応、まだ同盟を結んでいない国の城。油断はできない。
何事かと必死に耳をすませていると、隣の鵠が楽しそうに呟いた。
「ああ、帰って来たのかな?」
「?帰って…?」
鵠の言葉に首をかしげる。
そんな佐助を満足げに見やり、鵠は更に言葉を紡ぐのだった。
その目は何処か嬉しそうで、だがその口元は何かを企むようなモノにも思えた。
「宰相サマのお戻りだ。」
→
((つ、ついに同盟キターーー!))
((お舘様、見ていてくだされ!この幸村、しかと同盟を果たして見せますぞ!))
(で、アンタさあ、あの罠大丈夫なの?)
(…なにが?)
(自分達でかからないの、って話。あんないたるところに、大量に)
(そんな馬鹿じゃないんで)
(ちょ、それじゃ俺様馬鹿みたいじゃーん)
(でさあ、俺様前にもこの城来たじゃん?あの時邪魔したのって、アンタだよね?)
(?違うけど?)
(はっ?!でも、確かに…)
(…珀かなあ。…俺の姉)
(ええ?!)
(俺は罠張っただけ。お客を迎えるのは珀の仕事)
(…マジかよ)
(…因みに、珀さっきまでココに居たよ)
(は?!嘘だろ?!)
(マジマジ)
(…((俺様、これでも真田忍隊の長なんだけど…))
はいはい、オリキャラが出しゃばる出しゃばる(←
夢主いっかいも出てこないという罠。大丈夫、次に出す問題ない(ある
早くBASARA人とイチャつかせてえええええええ
番外編も書きたいんだよね・・・!!
2012.04.02