「真田様、ご到着されました!!」




一人の女中が頭を垂れ、報告する。 その報告に大きく肩を揺らす人物が一人。

郁である。





「分かった。ここへ案内してくれ。失礼の無い様にな。」

「はっ。」




強張った(?)顔で女中にそう告げると、女中は襖を閉め、部屋の前から去っていった。

それを耳で確認すると、盛大な溜息を漏らす郁。
と、同時に一気に姿勢を崩し畳の上に寝転がる。





「うー…無理だよ、が居ない面会なんてっ…!」

「そう言っても仕方ないよ、郁。」





蹲り、嘆く郁にいつのまにやら現れた鵠が言葉をかける。
その言葉にも「うぅ」と嘆き声をあげつづける郁。



一体何故、こんなことになったのか。
事の起こりは数刻前に遡る―−-‐…

















「城下町で喧嘩勃発…?」




事の起こりは、ある家臣からの報告であった。


が自室で書類を片付けていたとき、一人の家臣が慌てて入ってきた。
そして、荒い息を整え報告してきたのだ。
城下町で少しやっかいな喧嘩が勃発した、と。


丁度そのとき、の部屋に遊びに来た郁もその話を聞いていた。

出羽は治安は良い方なのだが、まだまだこういう輩も居る。
幾ら郁たちが頑張ろうとも、これだけは少し無理があるのだ。





「…。」

「如何致しましょう、様っ。」





腕を組み、黙りこくる
その間、長い時間ではなかったのだが郁には少し長く感じられた。

家臣が焦った声色で尋ねかけると、は深く溜息をつき、眉間に皺を寄せ言った。





「其方に直ちに向かう。」

「はっ!」

「え?!」





の言葉に頷く家臣。そしての横で、の言葉に驚く郁。

その驚きようといったら…思わずと、その場にいた家臣も大きく肩を揺らす。





「え、行っちゃうの?え?も、もうすぐ幸村来るよ?!」

「だからこそだよ。こんな事知られたら、同盟破棄されるかもしれない。」

「じゃ、じゃあ、せめて他の人に行かせるとか!居なかったらどうすんの?!」

「国主だろう、こういう時しっかりしなくてどうする。」





が喧嘩を収めにいく、というのが予想外だったらしく。
郁は少し声を荒げて、に問う。手振り身振りで、かなり動揺して居るようだ。

その場に居た家臣は、その様子をオロオロと見る。


一方、はそれを軽くいなす。
そして、自分の愛刀を手に取り立ちあがると部屋を出て行こうと歩み始める。

それを見て、さらに焦る郁。





(も、もしが遅れて、ウチが面会したら…そっちこそ同盟破棄だよ!!)




よからぬ事態を想定し、あわわと焦る。
此度の同盟、が居るから安心しきっていたというのに…そのが居ないのでは急に不安がよぎる。

郁は、同盟を結ぶ話を進めるに当たって全て任せでいた。事実、任せる気満万でいた。
自分は「同盟に応じる」と答えるだけでよいと思っていたのだ。


だが、がここで抜けるのであっては話が変わる。
というか、自分が楽で居られなくなる。


なんとも酷く無責任な国主だが…仕方が無い。
で、すべて自分でやってしまうものだから余計だ。



自分の計画が崩れそうになり、焦る郁。

その様子を見かねたのか、が郁に言葉を紡いだ。




「大丈夫だ、やればできる子だよお前は。なるべく早く帰れるようにするから。」

「えっ、ちょ…!」





全然、大丈夫じゃないんですけどー!


一体どこの保護者の言葉だ。
郁の懇願はむなしく、は爽やかな笑顔でその場を去っていった。


手を伸ばし、固まる郁。
口は馬鹿のようにポカーン、と開いており目は虚ろ。


ヒュウウ、と冷たい風が吹いた。(気がした)













そして現在に至る。


あの後、放心状態の郁を元に戻したのは鵠。

放心状態から開放されるや否や泣き泣き渋り、自分には無理だとごねた郁。
終いには部屋を転げまわる始末。
家臣一同と鵠の働きあってか一応、腹を括って面会する気になったのだが・・・


やはり、いざ!となってみると不安が押し寄せてくるもので。


今、郁は肘掛に肘をかけ、座椅子に腰をかけている状態。
見るからには堂々としている態度だ。

が、実際は内心かなりビクついている。
もし同盟破棄されたらどうしよう…とマイナス思考にばかり行く。
非常にソワソワしており、顔はいまにも泣きそうな面だ。





「やばい鵠。やばいやばいやばい、マジやばいって!」

それ5回くらい聞いたよ。

「うぐっ、うう、早く帰ってきてよ!!」





もはや「やばい」しか連呼しない郁。
傍らに居る忍にしがみつき、ここには居ない家臣の名を叫ぶ。

相当テンパっている様子。
本当にコイツは国主なのだろうか、がこの場に居るならばそう心で思い、頭痛が発動することであろう。


必死で掌に「人」という文字を書き、それを飲み込む郁。
しまいにはブツブツと呟き始めてしまった。

そんな我が主を見、苦笑しそうな鵠であったが…


一つの気配を察知する。




「あ、来たっぽい。」

「え?!」





そして、郁の間の抜けた言葉も聴かずにシュッと、跡形も無く姿を消していた。

それに余計オドオドし始める郁。
鼓動が高鳴る。心の臓が早鐘のように鳴る。



聞こえてくる足音。
それは段々とこちらに近づいてくる。

そして、その足音は郁の部屋・天守閣で止まり女中の声が、襖越しに聞こえてきた。




「殿、真田様がお見えになりましたでございます。」









**




「おお!ここが天木城でござるか…!」

「ふーん、結構いい城みたいだねー。」



前方に見えるは、此度の同盟相手である出羽国主・天白殿の城。
某が見てきた城の中でも、屈指の城といえるであろう…。



某は今、重大な役を任されている。同盟を結ぶにあたって、とても重大な任だ。
某の働き次第によって、同盟の有無が決まるやも知れぬのだ!


城門まで向かい、門番に用件を言い渡す。
それと同時に印鑑を見せれば、その門は何の問題も無く、重い音を立て開いた。


こうも簡単に開いてしまっていいのか…?

某が周りを見渡していると、ふと佐助が耳打ちをしてきた。




「じゃ、俺様先に城入ってるからね。」

「うむ、頼んだぞ。」

「はいはいーっと。」





そういうや否や、佐助は姿を消してしまった。
流石、真田忍隊の長!

佐助には先に潜入してもらい、視察してもらうのだ。
お舘様が認めた国主ならばしないとは思うのだが、もし、奇襲をかけられることがあったら…との念の為だ。

お舘様はそのようなこと、絶対起こらぬと申されていたが…
もし起こることがあれば、この幸村が返り討ちにしてくれようぞ!


佐助が申しておったように、出羽は読めぬ…らしい。
あまり出羽の情報がないのだ。

と、いうのも情報がないわけではない。情報を得られないのだ。
佐助や才蔵など、優れた忍でも情報が得られなかったらしい。
それも全て、宰相である・殿の仕業らしい。


通称・戦場の鬼。その名は常に耳にしていた。
一体どのような御仁なのであろうか…。



此度の同盟、油断できぬ!

っと、こんなことをしてる場合ではござらんかった!



馬を進め、城内を歩んでいく。
しばらくすると、小さな門が見えてきそこには小姓と女中が居た。

恐らく、馬をここで下りあの女中が中を案内するのだろう…。


馬を下り、その小姓に手綱を渡すと門がぎこちない音を立て開いた。

と、横に居た女中が某に声をかけてくる。





「ご案内致します。」





一礼しそういうと、女中は歩み始めた。それに続き、歩んでいくのだった。




城内を歩む。
女中の後につき、長い廊下を・階段を歩む。

この城には緑が多く見られる。
木々や草花…きっと城主である天白殿の希望なのだろう。

ときたますれ違う城の者たちは、某に気づくとその場に座り頭を垂れる。
うむ、礼儀がしかと成っている…。

また、城の整備は行き届いており綺麗。


様々なことから城主の天白殿の性格が伺える。


と、某が城内を見渡しているといつのまにか天守閣に辿り着いてしまっていたらしい。


某の前には、大して煌びやかなものではないのだが
刺繍や絵が綺麗な襖。

緋色が中心なのは、天白殿の趣味だとか。




「殿、真田様がお見えになりましたでございます。」




女中が手をつき、頭を垂れ言う。


この襖の向こうには天白殿が居る。


お舘様!この幸村、しかと同盟を結んで参りますぞ!!!














(もうお頭の膝元で喧嘩なんてやらないでくださいよ…)
様!真田様が城に到着されたらしいです!)
(げっ、急がないと…っ!?)
(お侍様!先程は有難う存じました!)
(あ、貴方は先程の娘さんっ。い、いや宰相として当然のことをしたまで…っ!?)
(是非、うちの茶屋でお礼を!!)
(え、ちょ、あの、手…)
(いやいや、うちの店で!)
(いや、うちの茶菓子の方が倍美味い!)
(うちの餡蜜は絶品ですよ!)

((な、早く城に戻りたいのにー!))


(むぅ…幸村は大丈夫かの)
(お舘様、真田殿はやる時はやる御方。心配無用にございますれば)
(それもそうじゃの!幸村、しかと同盟を結んでくるのだぞ!)














ゆきむるぁあああああああああ(((
ついに赤い人とご対面・・・!!オカンもいるy(

次回はシリアス?けれど、真面目になりきれない吉切ですので(←)
ときたまギャグが入るかと。



2012.03.28