「今日は、厄日か何かかな…。」

「Oh,そうツレねぇこと云うな。」





静寂とした中で、蒼い武将と縹色の武将が睨み合う。


縹色の武将・ は心底溜息をつく。
まさか、戦帰りに独眼竜と遭遇してしまうとは…。
気配に気づいたとき、誰かしら武将に出会うだろうとは覚悟していた。

だが、まさか独眼竜に出会うとは…
いくらなんでも其れは無いだろうと、心底自分の運のついてなさを呪うであった。



一方、蒼い武将・伊達政宗は心踊っていた。

出羽の国の話は度々耳に入っていた。ほとんど他国から貰った情報だったり、町の噂だったが…。
幾度も忍を潜伏させたが、情報は何も得られなかったのだ。
十中八九、忍の鵠と珀の働きのお蔭だろうが。


自分が知ろうとしても知ることのできない国。そんな国の政を任されている宰相。
気にならないわけが無いのだ。

そんな人物に出会って心踊らないことがあるだろうか?


口元を結び弧を描く政宗。ニっ、と決して爽やかな笑みではない。
心なしかその瞳は揺らぎ無いものとなっている。



そんな政宗の内を知る由も無く、はただ眉間に皺を寄せる一方だ。

別に政宗が苦手なわけではない。嫌いでもない。
ただ相手は敵国の主。警戒をしない訳にはいかない。





「…で、何で独眼竜殿がココにいらっしゃるのかな。」

「Ah-n?」





馬上から問う

そう、ここは出羽国。の主・郁が治める国であって、政宗の国ではない。
同盟国でもない政宗達が何故ここにいるのか。
見る限り伊達軍は武装をしている。出羽国に喧嘩を売っている、と見なされても無理は無い。


殺気を自制し、相手を見据える
まだ太刀に手は掛けていない。だが、すぐ取れる体勢にいる。





「ここは、出羽国のはずなのだが…?」





先程よりも低い声で言い放つ。普段から低い声が、よりいっそう低くなっている。
目つきは鋭く、漆黒の眼が政宗を射る様だ。


そして、の問いに政宗は一瞬目を見開くがすぐさま元通りになり、喉をククっと鳴らすと言葉を紡いだ。





「Ah-ha!戦帰りだ。」

「…戦帰り、だ?」





少し予想外の言葉に、僅かながらも目を見開く。
気を張っていたのに、今の言葉で毒気が抜かれてしまった。

そしての言葉を聴くや否や、政宗は頷き喋りつづける。





「Yes.軍神とちょっと闘ってきたんだよ。で、今は帰路だ。 越後で闘ったんだ。出羽を通って帰るのは普通だろ?O.K?」

「…本当だろうな?」

「当たり前だ。政宗様が嘘をつく訳ねぇだろうが。」





政宗の返答を聞き、一瞬耳を疑う
上杉との戦闘を終え、今は帰路…ということなのだろうか。

本当かどうかと問えば、政宗の傍らにいた右目・片倉小十郎が答える。
主が疑われたのを良く思わなかったのか、に負けないくらい眉間に皺を寄せている。
当たり前だと答えたその声は、低く地を這うようだった。


小十郎の言葉を聴くと、政宗は「そういう事だ、you see?」とニヒルな笑顔を浮かべる。


ふと其の二人の後ろに控える軍を見てみる。
伊達の家紋の入った軍旗は、所々破れており焼け跡も見られる。
足軽たちも、怪我を負っていたり、鎧が傷ついていたりなど。馬もだいぶ疲労しているようだ。
その状況を見るからにして、本当に戦帰りなのだろう。





「そうか…疑ってすまなかった。」

「Ah?No problem.別にンなこと良いぜ。」

「助かる。で、戦帰りで疲れているところに悪いのだが…。」

「…なんだ?」



少し間を置き、一呼吸する
次の言葉を待つ双竜に、何とも云えぬ声色で言葉を紡いだ。





「早々にこの場から立ち去って貰いたい。」

「「Ah-n/あ゛?」」




の言葉に、双竜の声が綺麗に重なる。
一瞬、その迫力に引きそうになるが身を留める。ここで引くわけにはいかない。
も国の上部の一部。長々と敵国に居られても困る。

鼓動が早鐘のように鳴るのが分かる。
元々、こういうのは専門じゃない。ものすごく苦手だ。中で政をするのに限る。

だが、これも避けては通れぬ道。

なるべく声が震えぬよう、声をより一層低くする。




「長居する必要はないのでは?其方も一刻も早く自国に帰りたいだろう?」

「Ha!!ま、そうツレねぇこと…。」




の言葉に、答える政宗。途中まで言葉を紡ぐと―−‐…





「云うんじゃねぇよ!Ha!」

「っ?!」





剣を真っ直ぐと、に振りかざした。



キインッッ!!

刀と刀がぶつかる音が響く。
また、それと共に歓声が沸きあがる。恐らく、いや事実伊達軍の輩だろう。



二振りの刀を振り下ろす政宗。その刀は僅かながら、青白い電光を纏っている。
瞳には、しっかりとした闘志が宿っていた。

また、とっさに馬から降り、振り下ろされた二振りの刀を一振りの太刀で受け止める
表情は至極、面倒くさそうだが…その瞳は、”戦人”のものとなっていた。





「Ha!そう来なくちゃなあ、”戦場の鬼”さんよ!」

「これは…どういうことかな、独眼竜殿…っ!」

「「「筆頭ー!!やっちまえー!」」」

「政宗様…!((胃痛発動))」





伊達軍による筆頭応援コールの中、二人が刃を交える。
政宗は六爪流に、海は変わらず太刀一本で戦う。
伊達軍に見守られながら(?)二人の刃がぶつかり合う音は響く。


火花が散る、飛ぶ、振り下ろされる、轟く、吹く、睨み合う。
様々な動きが戦闘で繰り出される。

主に激しく動いているのは政宗。本当に人間かと問いたい位の動きをしている。
跳躍力も腕力も、移動の早さも人並みではない。もはや超人。


一方、で凄まじかった。
攻撃はあまりしないものの、その政宗の攻撃を全く受けていない。
避けれるものは避け、軌道を読み、攻撃をいなしている。


そして何より凄いのは。一般人の戦闘では見られないだろう”バサラ技”。

政宗も海も婆裟羅者であるので、当然バサラ技を使えるわけだ。
政宗は蒼白い雷撃を、は隼の如き疾風を操る。
先程から互いで攻撃を相殺してばかり。





「DEATH FANG!!!」

「風斬!!」

「「筆頭ー!そんな小僧やっちまえー!!」」

「こんなことをしている場合ではないと云うのにっ…!」

「まーまー、小十郎。梵はいっつもこんな感じだろー?」





蒼白き雷鳴と渦巻く疾風がぶつかり合う。
その反動で、周りの木々が飛んだり草木が焼けたりするが気にしない。
いや、はものすごく気にしながら戦闘しているが…。

そんな二人を(事実、政宗だけだが)見守り、歓声をあげる伊達軍。
もう思いきり観戦を楽しんでいる。


そんな中、小十郎が深く溜息をつく。
我を忘れ、戦闘を楽しむ主に頭痛…否、胃痛を覚える。
最初は軽く怒りを覚えたが、今は怒りを通り越し呆れている。

そして、その小十郎を生暖かいで見やり、肩に手を置き慰めるは伊達三傑の一人・伊達成実である。
彼もまた、この戦闘の観戦を楽しんでいるのだった。



キインッ!ガッ!ザシュッ!ドォン!!



「いいねぇ、いいねぇ!ゾクゾクするぜ!」


ビュン!ギィン!ドカッ!シュッ!!



「よく回る口なことだ。」




斬る、飛ぶ、吹く、轟く、叩きつける、当たる。

激しい動きの中、二人は涼しい顔で言葉を交わす。
二人同時に斬りかかり、二人の距離が縮まる。顔が近い。
まあ、だからといってときめく訳ではない。
確かに政宗は美形だが…今は見惚れてる場合ではない。


政宗はというと、唇を弧に描いていて楽しそうだ。
一方は、楽しそうな表情ではない。困ったような眼だ。

というか事実、困っている。
早く切り上げたくて、この場を逃れたくて応戦したはずなのだが一向に戦闘は終わる気配を見せない。





(早く城に帰りたいのに…!)




日はとっくにの昔に沈み、月が顔を出し始めていた。これ以上長引くと、城の者を心配させるかもしれない。
いや、あの主のことだ…気にも止めてないかもしれないが……。


(あ、なんか自分で云ってて悲しくなってきた…。



まあ、自分の主のことは置いておくとして。とりあえず、一刻も早く城へ戻りたい。
執務が、書類が山ほど残っているのだ。それはもう、ものすごい量の。
郁はを過労死させるためにサボっているのではないかと疑うほど。

本来ならばもう夕餉を取り始めているはず…そう思うと腹が減る。



もういっそ逃げてしまおうかと考え、隙を探す。


と、ふと空を見上げてみると。





「!!」



「Ah-n?」

「な、なんだなんだ?」

「お、おい!鷲が飛んでんぞ!」

「珍しいなあ、この時間に。」





丁度、海たちの真上に漆黒の鷲が飛んできた。
低くも無く高くも無い鳴き声を上げながら、円を描き、大きく空を舞っている。


伊達軍がざわめく中、は僅かに笑みをみせた。



そして、すぐさま刀を納める。周りが声をあげたが気にしない。
そのまま、少し離れたところに居た愛馬・夜一の方へ(物凄い速さで)駆けて行き
勢い良くその背中に跨った。


手綱を握り、ぎゅっと一回手前に引く。
すると、夜一は前足を高く上げ、鳴き声を上げる。
すぐに走れるように準備をし、政宗の方を向き言葉を紡ぐ。





「Time orver.時間切れですね、独眼竜殿。」

「Ha?てか、お前南蛮語・・・!?」

「それでは。」

「Ah!?ちょ、おい!duelはまだ―−‐」





政宗が言葉を云いきる前に、は馬を走らせ駆けていってしまった。
漆黒の馬に跨り、野を駆けて行く。
「夜は野獣が出るからお気をつけてー。」という言葉を残して。
そして、その後ろを先程の黒鷲が追って行く。



忽然と、颯爽と駆けて行かれた伊達軍。
先程まで戦闘であんなに賑わっていたのに、突然の出来事で静まり返る。


戦闘の途中で逃げ出すなんぞ武士の恥じだと云う者。
先程の戦闘の感想を云う者。
やっと終わって、自由奔放な主を見やる者…


そして戦闘の最中で逃げられた政宗本人はというと、





「…クッ、クククッ…、HAHAHA!」

「ま、政宗様っ!?」





盛大に笑い声をあげた。
その場に居た者全員が唖然とする。
それもそうだ。こんないきなり、しかもいつもcoolな筆頭が大声で笑ったのだ。無理も無い。


ひとしきり笑うと政宗は自分の腕を見る。

まだ手が震えてる。腕が、手が、指が疼くのが分かる。
”アイツともう一度闘りたい”。体が、全身がそう云っているのだ。
胸が高鳴る。こんなゾクゾクする相手は幸村以来か。


ふと自分を見据えていたあの瞳を思い出す。あの瞳をもう一度見たい。
耳に残る先程の戦闘相手の声。あの声で自分の名を呼んで欲しい。





「小十郎…。」

「はっ。」


「来日、出羽と同盟結ぶぜ。」


…は?ま、政宗様っ!?」

「ククッ、楽しみだぜ!You just wait!」

「・・・。」

「どんまい小十郎。梵のアレは諦めようぜ。」





小十郎の心労など気にも留めず、我が道を進む政宗。
そんな政宗に頭痛を覚える小十郎。
そして、そんな小十郎を生暖かい目で慰める成実。



波乱の予感。

一つ、に近づくのだった。














(へっくしゅ!)

((な、なんか悪寒がする…早く帰ろ−…))














はい、第一BASARA人は政宗でした・・・!私的、小十郎出せたので満足((しゃらっぷ
そして、微糖すぎるだろ自分!!
いや、でも本当こういうシーンの方が精神的な意味で書きやすいといいますかね←
最後は、ちょっと夢っぽくなりましたかね・・・?

ひとまず、奥州組とはこれでお別れです(
お次は甲斐の赤い人と・・・???


2012.03.25