ドドドドドッ



馬のひづめの音が静寂とした野に響く。
騎馬兵のあとには、幾万もの足軽・弓兵が続く。


そして、その先頭にはこの天白軍の頭・天白 郁が馬を走らせている。


蜜柑色がかった甲冑を纏い、
緋色を布地として、黒と桃・金の糸で刺繍を施された陣羽織を羽織っている。
その腰には、愛刀である短刀が左右にさげてある。

愛馬・錬花に跨り、謀反を起こした鶴岡軍が居るであろう北のはずれ村へ向かう。

その顔はいつに無く真剣で、瞳は遥か向こうを見据えており
手綱をぎゅっと握り、馬の腹を蹴りスピードをあげた。



そのすぐ後ろには家臣の
彼女もまた愛馬・夜一に跨り、主の後を追う。

城の宰相であって、普段は戦場へ出向かないだが今回は主と共に、兵を引き連れ目的地へ向かう。


郁とは反対に、暗い寒色系の衣装を纏う海。
漆黒の甲冑、紺と灰色を使った陣羽織。そこには、銀色の糸で家紋を刺繍されている。
腰には愛刀である太刀、懐には小刀2振り。

その顔は無表情で、でも何処か何か悲しいような。
そう何とも言えない顔をしていた。はいつも、戦場へ向かう顔はこのような感じなのだ。



そして戦忍である鵠は、別ルートで移動している。
今ごろ、村に着いているかもしれない。



鶴岡を制したあとは、どうするか考えながら馬を走らせていると、突然郁がに話し掛けた。





「…また、民に迷惑かけるね。」

「…戦乱の世である限り、避けては通れない道だからね。どうにもできない。
 だから、早く天下収めて太平へ導いてよ。」

「…うん!!」





何より戦を嫌い、民が傷つくのを恐れる郁。
その家臣・もまた同じであった。
だが、ずっと戦を避けていくわけにも行かない。いち早く戦を収めるべく、村へ向かう。

戦をやめるために戦をするというのも随分と矛盾した話だが、
それはどうにもできないのがこの世だ。



ふと、前方で馬を走らせている主を伺う
そして、いつもこの位頼もしければ申し分ないと心で呟くのであった。















村に着くと、まだ大事には至ってはいなかった。

だが、所どころでは炎が上がり家などの建物は破壊されていた。

逃げ惑う人々、何処までも響く叫び声・泣き声、血の臭い。
遠く前方には、謀反を起こした鶴岡軍。
そのさらに奥には、大将である鶴岡 明臣がいるのであろう。


その現状と考えだけで、郁の沸点を越すのに充分だった。


頭に血が上るのが分かる。
ふつふつと自分のうちで、何かが沸く。
無意識に、刀に手を伸ばし・馬を走らせようとしたところで


に止められる。




「気持ちは分かるが…頭がそんなのでどうする。」

「!……ごめん。」

「…応、分かればいい。」





低い声で、郁を見据え郁を諭すように言葉を紡ぐ

それを受け、静かに頷く郁。そっと刀を納める。


郁が落ち着いたのを見ると、大きく息を吸いは高らかに声をあげた。





「皆!先刻、城で言ったとおりだ!!第3部隊は農民の避難誘導!
 第6部隊はこれ以上火が広がぬようにしろ!!
 いいか!雑魚に用はない!早くこの戦を終わらせる!民に負担をかけるな!
 これはお頭の願いでもある!」

「「「オオォォォォ!!!」」」

「鶴岡を血祭りにあげてやれ!!」

「「「オオオォォォ!!!!」」」





の号令により、いっせいに兵たちは敵方へと駆けて行く。
キィンッ!と刀と刀がぶつかり合う音が響く。ゴトッ、バタッなどの鈍い音。


は兵たちが動き始めたのを確認し、隣の主を見やる。
そして淡々とした口調で言葉を紡ぐ。





「…お頭。ここは任せて、さっさと大将の首獲ってきてくれよ。」

「…!うん!!」





の言葉に頷き、颯爽と敵陣へ突っ込む郁。
その瞳には、しっかりと強い意思が宿っていた。


刃を振るい、敵を蹴散らす郁を見届ける。




と、瞬時に太刀に手をかける。

そして、すぐさま後方からの敵の攻撃を防ぐ。
キィン!!と金属音が響き、火花が散る。

その刹那、後ろに振り返り敵を切り捨てる。
に切り捨てられた敵兵は、倒れ沈みながら呻き声をあげる。


その一つの流れは、誰もが目を疑うほどの早業だった。

言わずもがな敵方の兵が奇襲をかけてきたのだが、そんなものは今のにとって何の障害でもない。
今のは宰相ではなく、「戦場の鬼」であるからだ。





「さーて…、いっちょ殺りますかね。」




一つ溜息をつき、そう呟く。


戦場に、ひどく鋭く冷たい刃が振り下ろされたのだった。




















第一幕前半、終了です。本当は前半・後半と分かれていなかったのですが、
あまりにも長くなってしまったので切りました・・・。
長々としてしまうのが私の欠点ですね。

あ、勿論ですが鶴岡 明臣なんて武将存在しません。吉切の想像でございます。


女主は戦となると、多少口調と性格が悪くなります(え)
そこは、まあ・・・ご愛嬌ということで(((
というかこれ、夢・・・な、んだろうか。一応、あとからキャラ絡む・・・はず、なんだけd

では、引き続き後半をお楽しみください