しばらくして勝鬨が上がった。
郁が敵方の大将を討ったのだ。
兵から謀反を起こされたという報告を受けてから、1時間も経たなかったであろう。
鶴岡が天白にとって、障害に成り得ない力だったというのも言えるが
天白軍・・・大将である郁の気持ちの問題でもあったのだと言える。
村はすっかり戦場に変わってしまい、そこら中に死体が転がる。
とはいっても、死体は少なく
呻き声を上げながら蹲る者、深手を負いながらも必死に逃れる者が殆どだ。
それは、からの指示でもあった。
なるべく殺すな、というのが天白軍の掟なような物。一見、優しいようにも聞こえるがそうでもない。
武士としてはいっそ一思いに殺して欲しいところ。
(時たま、天白軍に是非入りたい、と懇願してくる兵士も居るが・・・)
戦場で死す、という武士らしい最後を迎えたいだろうには深手を負わせ、だが喋れるようにする。
そこで、敵方に色々と吐かせるのだ。
所謂「生殺し」のようなもの。
そういうところからは「戦場の鬼」とも言われる。
そんなが兵士と共に、敵方の兵に洗い浚い吐いてもらった。
今回の謀反は、どうやら豊臣の陰謀らしい。十中八九、豊臣の軍師・竹中の企みだろう。
鶴岡は莫大な恩賞と地位を約束され、天白を裏切ったところか。
新たな厄介な敵ができたことと、
情報収集を怠っていた自分に深く溜息をつくであった。
此度の戦では、幸い天白軍に大きな損失は無かった。
また、の的確な指示により、村の全焼・全壊は免れた。
死者も出ず、奇跡中の奇跡であった。
だが、村も多々損傷が出た。
軍も微々ながらも、貴重な戦力を消費したとも言えるだろう。
これからの出羽の国の財政、軍事力を考えると頭が痛くなる。
また暫くは、頭痛・胃痛などに襲われそうだ。
深くまた溜息をつき、自然と眉間の皺がこくなる。
兵たちに帰還の指示を出し、村人たちにも指示を出す。
ぞろぞろと天白軍の行列が、城への帰路についたのであった。
*
日はすっかり暮れ、だんだんと空も暗くなり始める。
燈橙色の空に、烏が飛ぶ。
影もすっかり大きく伸びてしまった。
「いやー、やっぱ戦は疲れる!」
「・・・そうだな。・・・節々が軋む。」
「、いつも言ってるよねー。」
「痛いものは仕様が無いだろう…事実なんだ。」
「にゃはははっ!」
「笑ってるが、ほぼアンタのせいだぞ…お頭。」
馬に跨り、軍の後ろの方を進む郁。
その横には、が同じく馬に跨っている。
また珍しくその傍らには、忍の鵠が歩んでいる。
大将やその右腕とも言えるであろう人物が、
軍の最後尾近くを歩んでいるのは少々(いや、多々)おかしいかもしれないが
天白軍としては極普通だった。
戦の後の、城への帰路では皆が和気藹々と(?)してる。
緊迫した様子はあまり見られず、お互い戦での様子を語っている。
また大将やその家臣も同じであった。
と、皆が城へ向かっている時。
「…。」
「…分かってる。もう…なんでかな。人が戦後で疲れてるっていうのに…。」
「?どした?」
鵠が突如、真剣な声色で海の名を呼ぶ。
また、その中に秘められた意図を分かっているのかも応える。
郁は何の事だか分かっていない。
そんな主の様子に困ったような、安堵したように溜息をつく。
そして、まだ歩みは止めずに鵠に言う。
「…兵たち連れて先城行っててくれ。」
「りょーかい。」
「お頭、頼んだぞ。何があっても城に辿り着いてくれよ。」
「当たり前。」
二人が会話を進めていく中、今だ疑問符を浮かべる郁。
そんな当本人を余所に、鵠は「んじゃ、舌噛むなよ。」と一言。
そう言うや否や、鵠は馬上に居る郁を抱き上げ颯爽と駆けていった。
いや、抱き上げるというよりも俵担ぎなのだが…。一方担がれた本人は、まったく現状を理解できずにいた。
郁の愛馬は、近くに居た兵士が連れて行く。
先程よりも、少し足を速めて進む兵たち。
どうやらちゃんと鵠が指示してくれたようだ。
一方は、その場に止まる。主の郁とそれを連れて行く鵠、兵士達を見送る。
そして、少し軍が遠ざかったところを確認し、自分の右側に意識を集中させる。
自分の刀に静かに手を掛ける。無論、左手は馬の手綱を握ったままだ。
首を動かさず、瞳だけを右側に向ける。
その顔の眉間には、皺が刻まれていた。
愛馬の夜一も何か悟ったのか、身に纏う雰囲気が強張る。
落ち着いてはいるものの、少し鼻息が荒く思われる。
だんだんと見えてくる”ソレ”。
距離が縮まってくる。”ソレ”が此方の方へ近づいてくるんだろう。
ぼんやりと見えていた”ソレ”が、
少しずつ、だが確実にハッキリと瞳に映し出される。
こちらへ歩んでる大群。
その先頭には、騎馬兵。
あちこちであがっている軍旗。それには、奥州笹と雀が描かれていた。
そして、その筆頭には――-‐
「Ah-n?アンタは…出羽の宰相じゃねぇか?」
「…今日は厄日か何かかな。」
自分に話しかけてきた人物。
隻眼で三日月を掲げた兜、蒼い陣羽織に六爪流。
奥州の国主・独眼竜と恐れられている伊達政宗が居た。
つくづく今日はついていない、と内心涙目になるであったのだった。
→
(ねーねー鵠。何で途中で急いで帰ったのー?)
(…夕餉に遅れたら困るでしょ?)
(ああ、なるほど!!うん?でもはー?)
(…町の娘をナンパしてくるってさ。)
(は!?ちょ、あやつ…!執務増やしてやるぅ!)
(…本気で、過労死しちゃうよ。)
((、マジで遅いな…大丈夫かな?))
((…すごい城に帰りたい。早急に。))
((Ha!coolな目をしてやがる!))
((早く奥州に帰らねばならないというのに…政宗様は一体何を…))
独眼竜のあの人と遭遇してしまいました^q^
さあ、夢主は一体どうするのでしょうかね。とりあえず、甘い展開になることはないと言えまs(
というか、夢主眉間に皺よせすぎ。
2012/3/20