俺様と長

俺様と長と長補佐








                    俺には尊敬する人がいた。



                    師匠の戸沢白雲斎先生も勿論の事尊敬してるよ。
                    でも、俺にはそれ同様…
                    いや、それ以上かもしれない位に尊敬する人がいた。



                    否、今もいる。



                    俺がその人に抱く感情は”尊敬”だった。けれど、月日が経つにつれそれは…恋慕となった。


                    けれどその人は、俺の傍には"今"はいない。
                    前は居たんだ。
                    だけど、突然・忽然と姿を消した。



                    俺はアレ以来、成長したと思う。
                    そりゃあ、能力的にも・精神的にも、勿論見た目もね。
                    あの人に次逢うときは、吃驚させてやる!って決めたんだから。



                    でも、不意打ちは卑怯だよね?!












                    「佐助、どうした?ボーっとして。」

                    「っえ!?何々?俺様、超元気ですよ!?」

                    「…そんな慌ててどうする…。」





                    急に話しかけられて、かなりどもる俺。
                    あちゃー、今のって不自然すぎた?!俺様、忍失格じゃない!





                    …と今、俺に話しかけてきた人がその人。
                    俺の尊敬に値する人で、想い人…サン。


                    実は俺がまだ子供だった頃の、里の長だったんだよね。
                    俺と三つしか歳は離れてないはずなのに…凄い差。幼心に衝撃を受けたねー、アレは…。


                    そんでまた吃驚な事にさ、
                    俺が旦那の下に来たばっかりのときの話なんだけど!
                    なーんと!真田忍隊の長でもあったんだよねー…
                    サンと一緒に働けるって分かっただけで、すんごーい嬉しかったの覚えてる。

                    その時はまだ、恋慕っていう感情じゃなかったんだけど…
                    どんどん惹かれていったんだよねー、あはー♪







                    ふとサンの方を見てみる。



                    姿形は全く変わっていない。(そんなことに何処か安心する)

                    紺色を基調とした忍装束。
                    その上から羽織っている縹色の陣羽織が風でなびいている。
                    腕と脚には、冷たく光る鋼の当。
                    短くも無く長くも無い髪は黒く、漆のようだ。

                    素顔は黒狐の仮面で覆われている。
                    何回か素顔見たことあるんだけど、まー綺麗なこと。
                    いやね、勿論の事お顔自体も綺麗なんだけどねっ!
                    瞳がすんごーく綺麗なの。青色で澄み切ってて、ずっと見てていたくなるね!

                    そんで何より俺が好きなのは…声。
                    女性にしては低い方で、竜の旦那の言葉を借りるなら…はすきーぼいす、ってやつ?
                    もう聴いてて癒されんの何の。
                    あの声で「佐助」なんて呼ばれたら、心踊っちゃうよ!


                    もちろん、中身も大好きなんだけどねっ!




                    あー、やば。
          サンのこと語り出したら止まんないんだけど!
                    んふー、俺様重症みたい♪


                    こりゃー、かすがのこと…どうこう言える立場じゃないねー。ちょっと、いや…かなりかすがの気持ち分かるかも。
                    忍としては…失格だよね。


                    でも、やっぱどうにもできないわ、これ!
                    サン、見ない間にまた綺麗になっちゃって…。
                    いや、顔は見てないんだけどさ?
                    雰囲気がまた大人らしさ倍増というかね…色気が、ね。





                    っと、いけない。
                    俺様、こんなことしてる場合じゃなかった。









                    「長ー、あのさ。」

                    「うん?なんだ、佐助。」







                    俺が声をかければ、返してくれるサン。

                    あ、ちょ不意打ちやめてよっ!顔にやけちゃいそうなんだけど!
                    や、もうほんとーにサンの声好きだわ。

                    って!そうじゃなくてぇ!








                    「な、なんでこんな所に居るの…?」






                    そう、俺が聞きたいのはその事。
                    今現在、俺達は森に居る。


                    俺が任務帰りで館に帰ろうとしたとき…ふと気配を感じたんだよね。
                    敵かなー?って思って、少し神経研ぎ澄ましてみたら…あら吃驚。
                    其処にはサンが居ましたー、ってね。


                    うん、吃驚したよ?
                    だってさ、急に居なくなった想い人がさ?急にまた現れるんだよ?
                    いくら部下使っても、俺様直々に情報を集めても消息が掴めなかったんだよ?!

                    いきなりすぎて一時思考停止したね。
                    で、夢かと思って頬を抓ってみたら凄い痛かった。
                    (そんときに「どうしたんだ?」って苦笑したサンがめっちゃ可愛かった)



                    で、本題。
                    俺がそう問いてみれば、答えはあっさり返ってくる。










                    「ん?長期任務がやっと終わったからね。報告しに戻ってきたんだ。」










                    そう言うサンは、にっこり笑った。
                    うん、目元は仮面で隠れてるんだけど、口元はしっかり見えるからー…
                    サンの口は、確かに弧を描いてた。


                    え?なに?どゆこと?
                    ちょーきにんむ?ほーこく??

                    俺は瞬きを繰り返す。








                    「長期、任…務?」

                    「そ。あれ、大将から聞いてなかった?私、全国を転々として情報送ったり潜伏してたりしてたんだ。」












                    は、初耳なんだけどおおおおおおおおおおおおおお!!!




                    ちょ、大将!何しちゃってくれてんの?!
                    そんなこと、俺様たった一度も聞いたことないんだけど?!
                    何?俺は、十年近くそれ知らされずに過ごしてきたわけ?!

                    てか、全国転々としてて何で一度も逢えなかった訳・・・?
                    それ哀しいんだけど!
                    俺だって、それなりに任務で全国飛んでたんだけど…


                    そっかー、全国転々としてて尚且つ潜伏もしてたわけね…
                    だから幾ら情報収集しようとも、消息が掴めなかったのねー…
                    しかもサンだから、そこら辺は抜かり無いだろうね、うん。


                    俺様が落ち込んでいると、前方からサンが俺を呼ぶ。











                    「ま、そういうことだからこれから宜しくね。」



                    そう口で弧を描き云うと、ぴーすさいん?をするサン。





                    「え?」

                    「長期任務も終わったことだし、これからは普通に武田の忍として活動するよ。」










                    え?ちょ、聴いた?今の言葉。
                    俺の聞き間違いじゃ…ないよね?!喜んで良いよね?!

                    ん?でも、今の真田忍隊の長って…俺、だよね?
                    え、俺様降格?いや、長がサンなら別に問題はないんだけど。









                    「いや、佐助は降格しないよ。長のまま。」











                    ちょ、サン心読まないでお願い。
                    いや、忍の本能?なんだろうけどね!俺様の心はちょっと覗かれると困るというかね。
                    まあ、俺様も健全な男子な訳だし?色々と、ね?
                    てか、さっきの心も読まれてたら困るんですけどっ!
                    っあ、でもサンになら読まれても良いかも。なーんて、んふー♪

                    いやいや、そうじゃなくて。
                    じゃ、サンはどういう位置に…?










                    「私は、真田忍隊の長の補佐。佐助の、部下になるんだよ。」








                    またまた心を読んで答えるサン。
                    あれ、もしかして顔に出ちゃってるとか?あらー、忍失格じゃないの俺様。

                    うん、それでサンは俺の補佐、だって?
                    ああ、で俺の部下になるわけ…成る程ねー。で、俺様は降格しない訳だ。
                    成る程成る程…そっかあ、へぇ…



                    って。










                    「へぇえええええ??!

                    「面白い叫び声だなあ、佐助。いや、佐助様…かな?」











                    うん、俺も今自分で「変な叫び声」って思ったよ?!
                    や、でもこれは不可抗力ってやつでしょーが!



                    サンが俺の部下?!

                    いや、思っても無い事なんだけど!え?嬉しいに決まってるでしょ?!
                    以前とは立場が違うわけで、
                    あーんなことや、こーんなこと…やば興奮してきゲフンゲフン

                    しかも、さりげなく「佐助様」って言ったよね?!ね?!
                    お、俺の聞き間違いじゃないよねっ?!
                    やばいって、これは反則だって。
                    しかも、なんか口角上がってたし!ニって感じでさあ!!
                    何?!誘ってんの?!
                    あー、だめ。なんか下半身が元気になってきゲフンゲフン




                    お、落ち着けって俺。
                    うん、まず落ち着こう。

                    で、サンを見てみる。
                    仮面があるからやっぱり表情はあまり読み取れない。

                    今だ困惑(というか乱心)してる俺様を見て、サンは言葉を紡いだ。












                    「ま、これから宜しく頼むよ、長殿。」








                    そう悪戯っぽく云うサン。


                    こんな表情見るの初めてだなー…
                    口元しか見えてないはずなのに、どんな表情をしてるか想像がつく。
                    ああ、その瞳も見てみたいなあ。


                    多分、今の俺様の顔は真っ赤だと思う。




                    これからが楽しみすぎるよ。