、お前テニス部だったら誰が好み?」

「・・・は?」





それはブン太のくだらない一言から始まった。









誰がお好みですか











「いや、突然なに」

「だから、そのまんまだっての。誰が好み?やっぱ俺?」





この赤毛ガムは何を言っているんだろうか。というかそもそも、なんでこのタイミングで話すんだろう。 いまは部活中だ。とは言っても、休憩の時間なんだけどね。 テニス部のマネージャーである私は休憩時間だからといって、休めるわけではない。洗濯に掃除にドリンク作り、部費の調整だってしないといけない。 マネージャーも中々に忙しいのだ。そして今は、部室で洗濯物を畳んでいた。 そんな私に、この赤毛ガムことブン太は話しかけてきた。しかも、意味の分からない言語で。 いや、言葉の意味は分かるけど。なんでこの場で、このタイミングで言うのかな。


私が疑問符を浮かべていると、どこからかパイプ椅子を引っ張ってきたブン太は 椅子の背もたれを前にし、そこに腕をかけて顎を乗せるようにして座った。完璧、居座る気だな。





「なんで、そんな話になるの」

「いやよー、なんか気になって。うちの部、結構イイやつ居るだろぃ?」

「は、はあ・・・」





居るだろぃ?って言われても。確かにうちのテニス部はイケメンぞろいだと思う。マネージャーなんかやってると、 クラスの女子に(嫌味半分で)「い〜な〜」とか言われるし。いや、替われるものなら替わっていただきたい。 至極意味が分からん、という顔でブン太を見ていると「なに、惚れちゃった?やっぱ俺?」とか言ったけど無視だ無視。 結局、ブン太には付き合ってらんないということで、私は作業を再開したのだが。





「あれー?丸井先輩と先輩!なに二人で話してるんスかぁ?!」

「何や面白そうじゃの、俺らも混ぜんしゃい」

「おー、赤也に仁王。いいとこに来たな」

「・・・」





なんでこんなにタイミングがいいんだ。
部室の扉が開いたと思ったら、これまた濃い面子。銀髪チョロリの詐欺師、ワカメ頭。どれもテニス部員だ。 銀髪チョロリの詐欺師こと、仁王は部室に入ってくるや否や私の横に腰掛けた。・・・なぜここに座る、仁王よ。 それに続くようにワカメ頭こと、後輩の赤也も部室に入ってくる。そしてそのまま、仁王と反対の私の横に座る。 そして目の前にはブン太。これはなんという陣形ですか。というか、近いね。

仁王と赤也は腰掛けるなり、タオルで汗を拭ったりスポーツドリンクを飲んだりしている。 そういうことをするなら、余所でやった方がいいと思うんだよね。そう思うのは私だけですか?





「で、何話しとったんじゃ?」

「あーそれ気になるっス!!」





気にしなくていいよ。むしろ気にしないで欲しいんだけどな。というか、雑談してないでちゃんと休憩した方がいいよ。 これからの練習キツイでしょ、休憩挟んだ後のっていつもハードじゃん。ちゃんと休憩しなよ!!ブン太と私の会話なんて、忘却の彼方へ追いやって欲しい。 (いや、そもそも会話は別に成立はしてないと思うのだけれど)

そんな私の心情を知ってか知らないのか、ブン太はニヤニヤとした顔つきで喋り始める。





にテニス部で誰が一番好みか聞いてたんだよ」

「なんスかそれ?!?!」

「ほーう、それは興味深いのう」

「だろぃ?」

「で、。誰が好みなんじゃ?」

「ええ・・・」





なぜ会話に加わる。しかも仁王もそんなニヤニヤしないでほしい。本当に詐欺師かお前。 赤也に至っては、もう訳わからん。顔真っ赤にして、「せせせせ先輩の好みっ?!き、気になるけどおおお俺はっ」とか何か呟いている。怖い。 そんな面々に心底溜息をつきながら、洗濯物を畳みつづける。 ・・・つもりだった。だが、それはある人物に阻止されたのだ。その人物は言うまでもなく、隣に座っていた仁王だった。 「いまはええじゃろ。で、どうなん?」ってえええええ、マネージャーに仕事放棄させるつもりですか。 ふと目の前を見てみると、ブン太がうんうんと頷いている。いや、違うだろ。仕事させてください、じゃないと帰れないんですよ私。 仁王が掴む、腕が(ちょっと)痛い。そんなに聞きたいんですか。私の好みとか聞いても、1円の得にもなりませんよ!

そんな感じで、心底困り果て勘弁して欲しいという視線を送っていたとき、また部室のドアが開いた。 ギィ、という少し錆びれた独特の音が部室に響いた。





「?お前ら、なにしてんだ?」

「仁王くん、何故さんの腕を掴んでいるのですか?」

について話していた確立、98%」

「貴様ら、こんなとこに集まっていたのか」

「なにしてるんだい?」





・・・これは凄く面倒くさい感じになる気がするのは私だけでしょうか。 もしかしてこれは、全員の前で先ほどの件を話さなければならないフラグか。そうなのか。












「・・・・という訳っス」

「ふむ、なるほど」

「そういう面白い話をするなら俺も呼んでくれよ、水くさいなあ」

「たるんどる!」





ですよね、そういう展開になりますよね。あの後、何を話していたのか問われたブン太は同じ説明をするのが面倒になったのか 全てを赤也にバトンタッチした(人はそれを放棄した、押し付けたと言う)。そして律儀なことに、赤也はちゃんと今までの経緯を説明した。 本当、その説明を聞いてる間だけでも洗濯物を畳みたかったのに、相変わらず私を放さない仁王の手と、幸村の笑顔が怖かった。 ので、無理でした。大人しくしていました、ハイ。この部活、こういうところ怖い。

今現在、私とレギュラーはある意味大きな円を作っている。先ほど言った通り、ブン太は目の前に。左隣に仁王、右隣に赤也。 そして更に広がるように、柳生・ジャッカル・真田・柳・幸村までもが部室内に位置している。なんか、はい。私が囲まれているみたいなんですけど。 うう、仕事したい。

心底この状況から脱したい私に、柳が発言をする。





「で、。結局のところどうなんだ?」

「はいぃ?!」

「テニス部の中で誰が好みなのだと聞いている」





ええ、まさかあの柳までそんなこと聞いてくるなんて。練習のし過ぎで頭がおかしくなったんじゃ・・・は!もしやボールを頭部に ぶつけたり・・・それはないか。そう言ったところ、「興味深いデータが取れそうだからな」らしい。本当データ大好きですね。

それに、幸村とかも何か興味津々だし(というか、心の底から面白がっている。ぜったい)。 真田は「たるんどる」とか言ってるけど、何だかんだで部室にいるし。なんなんですか、気になるんですか。 立海の良心はジャッカルと柳生だけだ!と思ったら、案の定彼らも乗り気でした。泣きそう。





「いや、あの、というか幸村。もうすぐ練習再開じゃないの?こんなところで駄弁っている場合じゃ」

「ああ、そんなのあとあと」

「ええええええええ」





この部長さんは、そんなに面白いことをしたいのか。もうすぐ全国大会なんですけど!! というか、平部員は?彼らはどうするの。と言ったところ、既に練習メニューを言付けたらしい。用意周到か。





「で、どうなんだよぃ」

「どうなんだと言われても・・・よく分からないんですが」

「俺らの中で誰がタイプか、ってことじゃろ?簡単じゃきに」

「先輩、俺っスよね?!」

「ばーか、ちげーよ赤也!アホかおめーは!」

「なっ、なんなんスかそれぇ!」

「そうだよ、赤也。が好きなのは俺なんだから(笑)」

「その(笑)は何なんだ・・・」

「いや、案外私かもしれません」

「「それはないだろい/じゃろ」」





周りが騒がしく口論を始めたが、そうは言われてもなあ。好み、ってどういうことだろう。 顔がってことか、性格か、はたまた全てにおいてか。好みっていっても、ただ単に好きなタイプと付き合いたいタイプって 違ったりすると思うんだよね。というか、立海のテニス部レギュラーの面々は本当濃いからなあ。


うぅん。





「好みの人は、ブン太かな」

「「「「!?!?」」」」

「マジかよ!やっぱ俺かー!」

「なんで丸井先輩なんスかぁ?!」

「そうじゃ、おまんはどうかしとるぜよ。目を覚ましんしゃい」

「おめーら喧嘩売ってんの?」





ブン太は男前だから。私、いざというとき頼れる人とか男前な人が好きなので。
私の発言に、ブン太は嬉々とし、仁王はブン太と一触即発って感じだし、赤也に至っては嘆いている。他の面々も心なしか落ち込んでいるように見えるのは、 きっと私の気のせいだと信じよう。幸村の笑顔が怖いです。

まあ、でも続きがありまして。





「付き合うなら赤也」

「「「「「!?!?!」」」」

「っしゃあ!!!」

「はあ?!どういうことだよ、それ!!」

「付き合って楽しそうなのは赤也かなーって。ブン太は浮気しそう」

せんぱぁぁぁあい、大好きっス!!!」

「赤也・・・あとで、どうしてくれようかなフフ」





これは先ほどいった通り。赤也は付き合って、すごく楽しそうかな。可愛いし。
というか、さっきから本気で幸村が怖いのですが。笑顔の後ろに、黒いゴゴゴゴって感じの何かが見える気がする。 赤也はというと、私に抱き着いてきました。正確には、腰に纏わりついてきた。もう何でもいいよ。どうにでもなれ。 そんな赤也をブン太は必死の形相でひっぺがす。





「で、結婚するならジャッカル」

「「「「「はあ?!?!?!」」」」」

「うわ、全員ハモった」





普段言葉遣いの綺麗な柳生までもが、叫んだ。どれだけ吃驚したんですが、みなさん。 ジャッカル本人は、現状把握ができていないらしい。「は、え、あ、俺?」とか言ってる。貴方以外いませんが。 ジャッカルは頼り甲斐あるし、家庭を支えれる人だと思う。仕事もちゃんとしそうだし、子供可愛がりそうだし。 そういう点では、ジャッカルが一番かなぁ。

ぼんやりと思っていると、ジャッカルがブン太に四の字固めされてました。





「で、老後一緒に過ごすなら真田」

「「「「ええ?!?!?!」」」」

「む、俺か」

「うん」





今度は全員、絶句した。いや、だってそうでしょう。なんか老後は真田かな、みたいな。 というか、さっきからみんな吃驚しすぎじゃない?あなたたちが私に言えと言ったんでしょうが。 真田と言えばなんだかご満悦気味だ。隣の仁王に、「どうしたんじゃ、正気に戻りんしゃい」とか言われましたが、私はいつだって正気です。

絶句したと思ったら、今度は真田が複数に襲われた。いや、なんかターゲットにされたみたいな。 仁王の顔が怖い、極悪な悪人面だよ。見たことないよ。幸村本気で怖い、なんか寒気がしてきたよ私。 柳生もなんかメガネ光ってる気がするんだけど、なんでかな。その反射の光が異様に恐怖に感じるのは私だけかな! 柳は黙々とノートをとったと思ったら、開眼した。なぜ、いま、この場で開眼する。 ブン太は相変わらずジャッカルを四の字固めしてるし、赤也はなんか部室の隅っこで悶々としてるし。



・・・仕事しよう。




ちなみに、幸村は全てにおいて怖いので却下。(なんかもう、とりあえず怖い) 柳生は紳士でいい人だけど、それだけ。それ以上には見れないと思う。 仁王は、実はイイやつだったりまあ良いんだけど、恋人にはなりたくない。こいつも怖い。 柳は言うまでもないと思う。













Font By「あんずいろapricot×color」


2012.9.16 UP