「・・・あれ?」
いつもと同じ練習の日。毎回の如く、俺は木陰で寝ようと思ったんだけど
そこには想像もできない先客が居た。
この木陰はテニスコートからほどよい感じに離れていて、風もよく通るし、俺的隠れスポット。
誰にも知られて無いと思ったんだけどなあ。
先客・・・クラスメイトのちゃんは、木によりかかって寝ている。
首には半分ずれているヘッドフォン。右耳はちゃんと当たっているけど、左耳はずれ落ちている。
そのせいか、音楽がかすかに聞こえる。
ひざには読みかけ(?)の本。ああ、ちゃん読書好きだったっけ。
よく休憩時間とか読んでるよね〜。
そしてちゃんの横には、スーパー袋。なに入ってるんだろ?ポッキーとかだとEーなー。
さわさわ、と木の葉が風で揺れる。
風が涼しい。あー、眠Eー。
もう、寝ちゃおーっと。
すう、と静かに寝息をたてて寝ているちゃんの横に腰かける。
するとすぐに瞼が重くなってきて、俺は静かに眠りについた。
*
(・・・・これは、どういう状況だ)
目を覚ましたら、テニス部で人気の芥川くんが隣に居ました。
さて、この場合どうするのでしょーか!私は今まで幾つものRPGをしてきたけど、こんな展開は体験したことがない。
(そりゃそうだ)
一体全体、なんなんですかこのフラグは。
私は今日、部活動があって学校に来た。
一応、所謂サバゲーに勤しむ部活なんだけどね。(表向きは野鳥観察同好会とかそんな感じ)
部員は3人とかそんな感じなので、かなり緩い。
それで今日は、かなり早く解散したのだが、どうにも家に帰るのはダルく学校に涼しくなるまで居座ることにした。
かなり迷惑な生徒なことだ。
図書室とかは冷房が効いていていいのだが、なんせ一般生徒がいる。
いや、学校だから当たり前なんだけど。私は一人になりたいのだ。
それで、つい最近発見した穴場へ行った。
右手には本。左手にはスーパー袋。
先ほど、スーパーで購入したアイスたちが居る。氷も買ったので、そう簡単には溶けないだろう。
(そこまでするなら家に帰れよという話だが、それは面倒だったのだ)
そんな感じで辿り着いた穴場。
校舎裏にある木だ。それなりに大きく、いい木陰もできる。
ここは風通しもよく、かなり涼しい。ほどよい日差しもあって丁度いい。
しかも人目につかないので、静かに過ごせる。
ナイスプレイスすぎる。こんなところ、誰も見つけないだろう。
そう思い、私はヘッドフォン装備し本を読んでいたのだが。
まあ、当然眠気が襲ってくるわけだ。
そしてそれに逆らう理由もないので、私は睡魔に身をゆだねたのだ。
うん、委ねたんだけどね。
「・・・」
「・・・ぐー」
これは一体どういう状況でしょうかね。
目を覚ましたら、クラスメイトの芥川君が寝ているではありませんか。どういうこっちゃ。
しかも、さ、隣でね。ついでに言うと、私の肩に寄り掛かっているんですけども。
えええええなんで氷帝学園のテニス部で女子に人気があってイケメンで可愛いと評判な(長い)
芥川くんが居るんでしょうか。ファンに見られたら殺されそうな場面だ。
それは御免だ、まだ死にたくない。今死んだら、昨日通販で買った新作ゲームが通夜会場に届いてしまう。
・・・そ れ は い や だ !
「芥川さーん・・・起きてくださ」
「・・・・すぅ」
「・・・・・・・・・・・・。」
・・・起こせるわけ無いよね!!こんな気持ちよさそうに寝てる人、見たことないよ。
なにこの人、同じ年でしかも男子なのに何でこんなかわいいんですか。
定期的な寝息を立てて寝ている隣の少年。そんな様子に、ふ、と笑みが零れる。
もう諦めよう。いつか起きるだろう。そのときは、サバゲーで培われた俊敏性とかそんな感じで
逃げればノープロブレムだろ。こういうメインの人間とは関わらない方がいいよねー。
私あれだから、モブモブ。そういう人間は、輝いている人たちと関わったら駄目なんだよ。
そんな感じだから、そのときまで頑張れわたし。がんばれ。
でもな、ずっとこのまま動かないのもなー。
ふと膝の本(ゲーム攻略本)に視線を落とす。正直、もう読み尽くした。
え?じゃあ、なんで持ってきたかって?他に本がないからだよ。
久しぶりにやろうかなーと思って、攻略本を持ってきただけです。復習だよ、復習。
だいじょうぶだ、ちゃんとブックカバーはしてある。
あ、そうだ。
アイス食べないと溶けちゃうな。というか、もう溶けてるか?
だったらヤバイなー勿体ないなー。
そう思ってゴソゴソと横にあったスーパー袋を漁っていると、
「なになにー?!アイス?!」
・・・お目覚めか!てか、これで目が覚めるとかどんなだ。
しかもアイスって何で分かったの。あれか、匂いか。それとも勘か。凄いな。
突如目覚めた芥川くんは、スーパー袋を覗き込むようにして私によりかかってくる。
近い近い。近いですよ、芥川殿。乙女のように「きゃっ☆」とかは無いけどね、絶対ないけど。
そんなイカした面を近づけないでいただきたい。困る、非常に。
「いやー、というか芥川くん」
「ジロー」
「はい?」
「ジローでEーよ。てか呼んで!」
にししっと笑う芥川く、もといジローさん。いや、呼び捨ては若干抵抗があるんですが。
てか眩しい笑顔ですねー爽やかですねー。
というか、これは全乙女に言っているんですかねー。だったら相当なタラシだな。
「なんで、こんなとこに居るんですかね」
「えー?それは俺の台詞だったC。ここ、俺が最初に見つけたんだよー!」
「・・・まじすか」
「まじまじ!ちゃんが居るの見つけたとき、まじビビッた〜」
えええええ、なんかすいません。まさか私以外にも発見した人が居たとは。
というか何で名前知ってるんですか。しかも下の名前ですか。苗字じゃないんですか。
しかも「ちゃん」付けってどんだけフレンドリー。
とりあえずアイスだ、アイス。愛しのアイス。もう溶けているかもしれない。
と、確認するべくスーパー袋を見てみたら無事だった。氷すごいな。
そして、ふと感じる視線。
確実にその視線は隣の人物から発せられているものだ。
「・・・」
「・・・食べる?」
「!!うん!!まじまじEーの?!」
「あー、うん。どぞ」
「ありがとー!!」
うわ、眩しい笑顔。そんなに嬉しいのか。
自然とこっちまで笑顔になってしまう。私が手にしていたゴリゴリ君をあげれば、嬉しそうに笑う。
なんか「あげてよかったな」とか思えてしまう。
校舎裏の木陰で、アイス食べてる生徒って・・・。これ先生に見つかったら終わりだなあ。
そう思いながら、私はもう一本のゴリゴリ君を開ける。
芥川君にあげたのはソーダ味で、私が食べようとしてるのは梨味。
食べようとすると、また視線を感じる。
言わずもがな、芥川く・・・ジローだ。
「そっちのもうまそー・・・」
「・・・・・食べる?」
「Eーの?!」
「あー、うん。一口だけなら」
「やったー!」
ダメだな、これは。何故かこの人相手だと甘くなっちゃうな、なんの魔法だよ。
反応が嬉しいからかは知らないけど、何故か胸がホクホクする。
そしてどういたしまして、と言う前に私の目の前にはジローが接近していて。
シャリ、と私が手に持っていたアイスを口に含んでいた。・・・早業か!
なんかもう、君躊躇いとか全然ないね。あー、ここは乙女だと恥らうとこなのか。
「まじおいCー!!!」
「そんなに?」
「まじまじ!定番のソーダもいいけど、梨もおいCーよね!」
ほほう、そんなに美味しかったのか。実は言うと私はこれが初めての梨味だ。
当然の流れのようにアイスを口に含む。
お、ほんとだ。美味しい。
シャリシャリと食べていると、隣のジローがにししと笑う。
そんなに美味しかったのか。
呑気なことを考えていることだ。いや、だって暑いし。仕方ないよね。
そんな私を余所に、ジローは予想もしない発言をした。思わず目を見開いちゃって、口をポカーンとさせるのも
致し方ないと思うんだ。
「間接ちゅーだね!」
にこーっとでも言うような効果音がつきそうな笑顔だ。
ああ、間接ちゅー。間接キスね、間接の接吻。
間接ちゅー・・・、間接・・・。・・・・・・はい?
いや、確かにそうだけど。間違ってはないけど。確かに間接キスですが。
え、あ、はい?
なんでそんなニコニコしてるのでしょうか、ジローさんは。
いや、頬が心なしか上気してる気がするとかそんなことないない。
なんか耳熱いなーとか全然思ってないない。
動悸が激しい気がするとか、なんかときめいてるとか全然ないですから、はい。
持っていたアイスが、溶けた(気がした)。
僕とアイスと君と
(夏の温度に、君に、溶ける)
2012.8.14