聞き慣れたメロディが耳に入ってきた。連続に、立て続けに。
ディスプレイを見ると深夜で、こんな遅い時間に何なんだと悪態をつく。
人の眠りを妨げるとはいい度胸じゃねーか、と心底イライラするが、それも一瞬のうちに消えた。時刻は深夜0時。日付は12月11日。
メロディの正体は何通ものメール。
ああ、そういや俺の誕生日だったっけか。
switch on!
寒さが本格的になってきたこの頃。木枯らしが身にしみて、外での部活も厳しく感じる。
指はかじかむし、動きは鈍るし、寒いし。冬ってのはいいことがない。
そんな冬の今日、俺の回りはそわそわとしている。そわそわっつーか、なんだか嬉しそうだ。
今日は俺の誕生日なわけだが、なんで本人でもないお前らが嬉しそうなんだよ。
今日は友人やら知り合いやらのメールで目が覚め、家族の第一声も「おはよう」でなく「おめでとう」
だった。メールはほとんどが0時ぴったりに送られてきて、お前らこのためだけに起きてた
のかよと思うと呆れる気持ちとか何だかで、少しだけくすぐったい気持ちになった。(こんなこと
他の誰かにでも言ったら笑われそうだ)
俺だって、そりゃあ、まあ、嬉しい。誕生日が何なんだと言いたくもあるが、まあ祝われて嬉しくない
奴は居ないんじゃねえのか。あまりにも騒がしくされたら、少しイラっとはくるがな。
学校についたら、「おめでとう」の嵐。野球部の面々は勿論、クラスメイトにも言われた。
なんか知らねえ奴にも言われたし。つーか、なんでお前ら俺の誕生日知ってんだよ。
あと、なんかプレゼントみたいなのも貰った。野球部のやつらに貰うのは分かるけど、
なんで知らねえ女子が俺に渡すのかが理解できねえ。知りもしない奴に貰うのはなんとなく
気が引けるが、誕生日だし跳ね返すのも悪いかと思い、一応は受け取っておいた。
つーか、ほんとお前誰。
学校では、とりあえず会う奴会う奴に「おめでとう」と言われる。最初は嬉しくもあったが、
時間が経つにつれ煩わしくもなってきた。(だってよ、知らねえ奴に言われてもそこまで
嬉しくないだろ?)
そんな感じで今日は人との接触をなるべく避けた。俺が段々イライラしてきてるのが
分かったのか、徐々に俺に近づいてくる奴は減ったしな。(それでも何か顔赤らめて、モジモジ
して俺に近づいてくる女子には軽く殺意が沸いた)
そして終わった今日の学校。いつも通りあった部活も終わり、俺はいま帰路についている。
そんな俺の横に居るのは、幼馴染の。気がついたら俺の横に居て、何かと世話を焼いてきた。
幼馴染だからなのか、腐れ縁なのか、とはずっと同じクラスだった。
幼稚園も小学校も中学校も。そして今の、西浦高校でもだ。まさか同じ学校だとは思っても
いなかった。相変わらず、当たり前のように俺の横にいる。
まあ、俺も別に悪い気はしねえから良いんだけど。
と横に並んで、住宅街を歩く。部活が終わってからで、しかも冬なもんだから辺りは
かなり暗い。ポツンポツンとある街灯と、月明かりが少しあるだけだ。
横を見れば、俺より少し小さい。耳と鼻が少し赤い。
「きょうの隆也は災難だったねー」
「・・・全くだ。次から次に来やがって、俺になんの恨みがあんだよ」
「っぶ。別に恨みはないと思う」
「・・・」
「ぶふ、隆也ここ、ここ」
シワ寄ってるよ、と笑いながら自分の眉間を指差す。悪いな、生まれつきだ。
別に笑ってるに腹立ったわけじゃなく、昼間のことを思い出したらから眉間にシワが寄った。
まあ、もそのことは分かってると思うけど。
昔から不器用で、人との衝突が絶えなかった俺だが、だけは違った。いつもちゃんと
俺のことを理解してくれていて、と居るのは嫌いじゃない。
「うおーう、さむいよーたかやー」
「俺だって寒い」
なんでこんな寒いのかなーと呟くに、俺は心中苦笑する。
つーかそんなに寒いなら、部活がある俺なんか待ってなくてもいいのに、は俺を待っている。
高校になってから一緒に帰ることは少なくなったが、それでもたまに一緒に帰る。
遅くまで部活をしている俺を、アイツは寒い校舎で(たまにグラウンドで待ってるときもある)
待っている。アホらしい気もするが、そんなを見ると「しょうがねーな」とか
思うあたり、俺も嬉しいんだと思う。
白い息をハア、と吐きそれを楽しそうに見る。寒いんじゃねえのかよ。
「なんかあったかいものないかなー」ときょろきょろ周りを見る、隣の幼馴染。
「んな簡単にあるわけないだろ」と言ってやれば、「だよねー」と笑う。
笑ったかと思えば、今度はいきなり大声(でもないが突然で、俺は肩を揺らした)を出す。
「あ!」
「んだよ」
「コンビニ!ナイスタイミング!!」
「はあ?ちょ、おい待てって!」
そう言うなり、前方に見えたコンビニへ走っていった。寒い寒い言ってたくせに、
ずいぶんと元気があるじゃねえか。苦笑しながらも、その後を追っていく俺。
コンビニに入れば、あったかい空気が肌に触れた。店内はちらほらクリスマス装飾されていて
(気が早くねえか?)、明るげな曲が流れている。人が少なく、雑誌コーナーには立ち読みが2、3人。
気だるそうに「らっしゃーせー」という店員。まさに夜のコンビニだな。
はというと、レジ前に立っていた。俺は当然の流れのように、その横に立つ。
うーんと唸りながら商品を睨んでいる。そんなに一生懸命悩むところなのか。
コイツ、こういうとこ可愛いよな。
「どれにすんの」
「うーん、ピザまん?でも、肉まんも食べたい・・・」
「ふーん」
ま、王道だな。つーか、肉まんとピザまんでこんなに悩む女子お前くらいだな。
一生懸命肉まんとピザまんを交互に見つめるに、ふ、と笑いが漏れる。
いまだに悩んでいるを横目に、俺は相変わらず気だるげな店員に言う。
「すんません、肉まんとピザまん1つずつください」
「肉まん1つとピザまん1つですねー」
「え?」
「両方買えばいいだろ。俺、どっちか食うから。一口やっからいいだろ」
「マジで?」
「マジで」
不思議そうな顔をするにそう言ってやれば、嬉しそうに笑う。
たかが肉まんで、いちいち嬉しそうにすんなっての。隣で嬉しそうに、にへらと笑う幼馴染。
店員が合計金額を言うので、財布を取り出すと「わ、わたしも出す!」って言いやがったので、
「こういうときは、黙って俺に出させろ」と凄んでやった。そうすれば、最初は渋っていた
だったが、最終的には折れたようで「それじゃ、おねがいします」と笑う。
はん、最初からそーしてりゃ良いんだよ。
コンビニから出れば、冷たい風。コンビニが暖かかっただけあって、外との温度差が半端ない。
コンビニ袋から買ったばかりの肉まんとピザまんを出せば、白い湯気がのぼる。
「ん」とピザまんをに渡す。そうすれば、嬉しそうにピザまんを頬張る。うま!と
言葉を零すに、そりゃ良かったなと俺も笑う。
はふはふと熱いだろうピザまんを頬張るを見て、俺も肉まんを食べる。
寒い中食ってるからか、いつもの倍は美味く感じられる。
「ん」
「うん?」
「食うんだろ、ほら」
「あ、うん。食べる食べる!」
一口齧った肉まんを差し出せば、嬉しそうに笑って俺の手から肉まんを頬張る。
もぐもぐと咀嚼して、「やっぱり肉まんも美味しいわー」と言うを見て、思わず苦笑する。
つーか、俺が差し出してそのまま食うとか、犬か何かかよ。餌付けしてるみてえだったわ。
「お前のも寄越せよ。俺の金で買ったんだろ」
「ん、はいどーぞ」
そう言って、さきほどの俺のようにピザまんを俺に差し出す。俺は容赦なくそれに齧り付く。
それを見て「ぜんぜん一口じゃないよ隆也!ひとくち大きすぎ!」と言うを横目に、
もぐもぐと咀嚼する。ふーん、ピザまんも中々にいけるな。
そんな俺に「もう一口!」と俺の肉まんをせがむものだから、ほれと差し出す。
そうすれば先ほどと同じように、肉まんを頬張る。こいつ、分かってんのか。
いちおうコレ、俺と間接キスなんだけど。
無意識で、きっと何も考えてないだろうに安堵するような、腹立つような。
俺は男として意識されてねえのか?と考えてしまう。俺はたぶん、というかまあ、のことが
好きだ。幼馴染を好きになるとか有り得ねえとは思っていたが、まさか俺がそうなるとはな。
だから、が今になっても俺と一緒に帰るとか言うと、俺でも少し、期待してしまうわけだ。
いい加減気づけっつの。
いまだ美味そうに、幸せそうに肉まんを頬張る。いつのまにか無意識に俺はを見ていたらしい。
その視線に気づいたのか、はにへらと笑う。そして、当たり前かのような流れで
言葉をつむぐ。
「たかや、誕生日おめでとう!」
なんで今このタイミングで言うんだよ。つーか、メール来なかったのは口で言いたかったからか?
そうだとすれば、俺はまたひとつ期待しちまうんだけど。
まあ、今のところはその鈍感さも許してやるよ。その代わり、明日から覚悟しとけよ。
Photo by 「はだし」
2012.12.11 UP 誕生日おめでとう隆也!