「…で、ご所望の品はコチラでいいのかな?」

「…ハン、上出来だ」

「御気に召したようで、何よりだよ」









言葉を紡ぎながら手に持っていたものを差し出せば、目前の人物は満足そうに笑みを浮かべる。
…笑みといっても、爽やかなものとは言えないが。



絢爛豪華な部屋。ド派手なものではないけれど、紅基調のその部屋は厳かな雰囲気だ。
シャンデリア、ビロードのソファ、真紅のカーペット。
横を見渡せば、なんとも高貴というか・高価なものが並んでいる。

・・・いつも思うんだが、いったい幾らぐらいするのかなあ。
売ったら相当な金になるんだろうな、とか思ってしまうのは仕様がないだろう。





そんな部屋には、私・と目前の男だけ。

目前の男…XANXUSは、椅子に深く腰掛け、目の前のデスクに足を乗せている。
・・・行儀悪いよね、いつ見ても。


XANXUSは、9代目直属独立暗殺部隊ヴァリア−のボス。
漆黒の髪、鋭い紅い眼、顔には火傷の痕。うん、視線だけで人を射殺せると私は思うよ。
容姿端麗に加え、ボスとしての素質は十二分。
泣く子も黙るボス様だ。


そんな彼に対し、私はしがない届け屋。
依頼主に依頼されれば、どんなものでもお届けしちゃう人。(ただし報酬による)
物だって、人だって、何だって届ける。
誰かに届けて欲しい、というのは勿論なんだけど、これを自分に届けて欲しい!という依頼も受ける。
様々な人・ファミリーにご贔屓にしてもらってる私だけど、特にボンゴレファミリー・ヴァリア−はお得意様。
そういうわけで、割と知り合いが多かったりする。








で、だ。

そんな私は今回、依頼を受けた。XANXUS個人に、だ。
組織として依頼を受けることの方が多いけど、たまーに個人依頼で受けることもある。

いや、あるんだけどね。
流石に今回は吃驚した。いや、だってあのXANXUSが、ね。
一体どんな大層なものを届けなければならないのかと、身構えしていた私だったけれど

XANXUSからの言葉に、(ものすごく)目を見開くことになった。


手元の箱からは、甘ったるい菓子の香り。今日の日付は、2/14。
・・・ここまで言えば分かるんじゃないのかな。








そう、事の始まりは数日前に遡る―−-‐・・・。










**















「〜〜♪〜〜〜♪」







いつもの如く依頼を終え、木々を渡り、帰路についていた私。

あれは、いつもより冷え込んでいた日だったかな。
鼻歌を歌いながら、白い吐息をたなびかせ、枝を思いきり蹴る。
月はすっかり顔を出し、星が瞬く、雲一つない静かな夜だった。


私が帰路へ着く足を早め、もうすぐ自宅へ着く、というところで聞き慣れたバイブ音が鳴った。
ポケットから携帯を取り出せば、「スペルビ」という表示が。








(・・・スペルビからメール?珍しいな・・・)







全くもってそのとおりだった。

どういう経緯だったかは忘れたけど、彼とはメアドを交換していた。が、メールはあまりしていない。
用事があったとしても電話がほとんどだ。
そんな彼からのメールということもあり、少し驚いた私だったけれど
すぐに足を止め、携帯を開いた。

いや、スペルビからのメールでなくても足は止めたかもしれないけど。
よそ見しながら移動して、落ちたら嫌だからね。こういう時って、結構反応遅れちゃうんだよなあ。
いくらこういう職についていても、痛いものは痛いしね。
(余所見といえば、最近のジャッポーネの若い子で携帯をいじりながら自転車に乗る子とか居るけれど。
あれ本気で危ないからね。大人でも携帯いじりながら車運転してたりね。あれ、本当危ないからね。やめようね)



っと、話しがそれてしまったけど。

とにかく、私は足を止め彼からのメールを読んだわけだが。


メールの内容は、『ザンザスが呼んでる。早急に来い。命が危険だあ!』というもの。







(・・・なんかツッコミどころが満載だなあ・・・)







まず、XANXUS。呼ぶなら自分で呼べばいいのでは、と…それはないか。
命が危険・・・誰の?私かな、いやそれともスペルビのか。まあ、どちらにせよ御免だなあ。


そういうことで、私は踵を返し早急にヴァリアーアジトに向かったのだった。




















スペルビからのメールを見て、すぐにヴァリアーアジトに向かった私。
存外、早く着いた。
玄関からお行儀よく入るわけにもいかないので、窓を開けて入った。うん、鍵とかは、まあ、届け屋クオリティってことで。
入ったら存外、スペルビにすぐ出くわして(目が合った瞬間、スペルビが心底助かったとでもいうかの表情をしたのは気のせいだろうか・・・)
すぐに(物凄い勢いでスペルビに腕を引っ張られて)XANXUSの部屋に案内された。





スペルビに案内され、XANXUSの部屋に入れば(当たり前なのだけど)私を呼んだ当本人が居た。
椅子に深く腰掛け、デスクに足を乗せ、ワイングラスを傾けている。
私の存在に気づき、あの鋭い眼差しをコチラへ向ける。
・・・いや、あの私呼ばれただけなんですが、彼方に。


まあ、XANXUSの視線には慣れた。
歩を進め、彼に近づき「で、御用はなんでしょう?」と問う。

そう、それが本題だ。こんな夜更けに、しかも依頼終わりたての私に頼むのだ。
相当な御用なんだろう。というか、そうでなければ恨む。


私がそう問えば、目前の男は口角を上げ、ニィっと笑みを浮かべる。
・・・嫌な予感しかしないのは、私だけでしょうか。
なんだか先が見えているんだけれども。
そんな私の心は露知らず、XANXUSはその口を開いた。







「チョコを寄越せ」







・・・はい?うん?なんか幻聴が聞こえたな。それとも耳が遠くなったのかな。
彼の口からは到底想像できないような言語が、言葉が、聞こえてきた。

私が思わず目を見開いていると、目前のXANXUSはさらに口に弧を描く。
彼はどこまでも上機嫌だ。・・・これって凄い珍しいんじゃないのか。








「ジャッポーネでは、女が男に渡すんだろうが」

「はい?あ、あー・・・そうですねえ」








・・・なんでこういう情報まで知っているんだろうか。

数日後は皆が知る、バレンタインデー。どうやら世界中どこでも、それは変わらないらしい。
ここイタリアでは、というか基本男性が心を寄せる女性に贈り物をする日だ。
もっとも、日本では女性が男性に渡すんだけど。


というか、すっかりバレンタインデーのこと忘れてたなあ。


と、私が思考の海に浸っていると低い声が、私を呼ぶ。









「・・・はい?」







うーん、毎回思うんだけどXANXUSって良い声してるよねえ。
というか、うん?今、初めて名前呼ばれた気が。今まで、なんだかんだで呼ばれたことなかったなあ。
いや、本当今日のXANXUSどうしたんだ?

私がまたまた目を見張っていると、またしてもXANXUSは口角をあげる。
なんか今日のXANXUS、本当に上機嫌だなあ。
あとで反動が来るんじゃないだろうか。


私が何だろうと首を傾げれば、その口を開き、言葉を紡ぐのだった。







「これは依頼だ、命令だ。手前に拒否権はねぇ」

「・・・」








どうやら強制のようです。







**









で。今に至る。

あのあと、私は至高のチョコを求め世界中を飛んだわけだけど。
どんなに高級で名高いチョコだろうと、XANXUSの舌を満足させることは無理なんじゃないかと途中で悟り
結局、手作りのチョコにした。
ついていることに私は料理は得意な方で、お菓子作りも嗜んでいるくらいだった。





そして今日。
出来上がったチョコをラッピングし、ここに来た訳だ。
チョコはウィスキーボンボン。
XANXUSは酒好きだし。これしか思いつかなかったのだ。ビターもいいかな、とも思ったんだけどね。







チョコを渡せば、存外XANXUSは満足そうで。箱を開け、チョコを口にする。
・・・結構緊張するものだな。

しばらく咀嚼していたXANXUSだったが、しばらくしてその口角が上がる。








「上出来じゃねえか。悪くねえ」

「それは恐縮だなあ」








満足そうに、ワイングラスを傾けるXANXUS。・・・いつのまに用意したんだ。
とりあえず、満足したようで良かった。
もし口に合わないようなら、私は塵になっていたかもしれないしね。・・・はは、冗談きついな。






・・・さて、ご所望の品は届けたことだし。ちょっと言うには勇気がいるんだけど、仕事だしね。


今だワインを飲むXANXUSに、私は口を開いた。







「で、XANXUS。報酬は?」

「あ?」

「あ?じゃ無いよー。依頼は終えたんだ。それ相応の報酬を貰わないと」

「・・・」








そう、まだ報酬を貰っていない。
XANXUSにこんなことを言えば宇宙の塵にでもされそうな感じだが、仕事だ。
私はこれで食ってきてるんだから、仕様が無い。

私がそう言えば、しばらく考え込むXANXUS。
・・・え、まさか考えて無かったとか?それは勘弁してほしいなあ。




私が心中苦笑い・半分不安でいると、XANXUSがチョイチョイと指を動かす。
・・・コッチに来い、ってことかな?
というか、私は犬か何かか。

特に警戒するわけでもなく、私はすんなりと近づく。
直接渡すものなのかな?なにか周りにバレたら不味いものなのかな?



そんな事を考えながらXANXUSに近づくと、






グイッ







「、え」







・・・一体全体、本当に今日のXANXUSはどうしたんだろうか。

落ち着け私。いや、私はいつでも冷静だけどね。うん、いたって冷静平静通常通り。
現状の把握をしようか。
私はついさっきXANXUSに呼ばれ、近づいた。そうしたら、急に胸倉を掴まれ、顔を寄せられ。


キスをされた。

いや、現在進行形でされている。いやいやいや、意味がわからないんだが。
さっきまでの話の流れだと、これが報酬、なのか?
いや、本当、えーと、なんと言えばいいんだろうか。






XANXUSに胸倉を掴まれたまま、なんともつらい姿勢のままキスをされている。
そんな状態でも冷静に物事を考えるのは、こういう職業だからだ。

と、考えているうちにキスは深くなる一方だ。



ついには姿勢に耐えれず、手をXANXUSの胸板につく。
キスは舌をからませたりするわけではないけど、貪るような深いキスだ。
何度も角度を変え、離して、くっついて、離して、またくっついて。
途中でどちらのかは分からない吐息が、厭らしい。








しばらく同じ行為を繰り返し、解放される。
最後に唇が離れるときに銀の糸が伝う。・・・本当に何をしているんだ、私達は。

多分、今の私は頬が上気しているだろう。
目の前のXANXUSはあまり分からないものの、少し目元が赤い。








「これ、が、報酬・・・なんですか」

「ああ?なんだ、不満か?我侭な奴だな」

「・・・反論する気にもなりませんねえ」








少し乱れた呼吸を整え問えば、意地悪そうに笑うXANXUS。


・・・どうやら本当にこれが報酬らしい。

口内は先ほどのキスによるものなのか。少し苦い、チョコの味がする。








(・・・敵わないな)








本当にこの人には敵わないと溜息をつけば、ハン、と鼻を鳴らす目の前の人物。
どうやら真意を汲み取ったらしい。こういうときは、聡い人は困る。



さりげなく私の顎に手をかけ、顔を寄せ、私の唇に己のそれを重ねる。
そして、あの声で耳元で囁くのだ。








「追加依頼だ。・・・手前の全てを、俺に寄越せ」










彼方に酔う




彼方は気づいていたのでしょうかね。

きっと、私は最初から彼方に惹かれていた。どこまでも強い意思を宿した、あの紅い眸に。
最初から、その双眸に掴まれていた。
とっくに、私の全ては彼方のものですよ。





(・・・で、この真っ赤な大きなバラの花束は?)(・・・施しだ)((照れてる・・・?))






Photo by 「L i n e 3 0 1」













第5弾はXANXUSでした・・・!

まず、謝罪を・・・!!バレンタインから1ヶ月は過ぎてしまいました申し訳ございません。
「え?これってバレンタイン夢?」とか思うお嬢様もいらっしゃると思います。無理もございません、だってホワイトデーも過ぎたものね!←
そして遅れたわりに低クオリティの短文・・・!!スライディング土下座しかございません(汗


初XANXUSということでかなり口調が迷子だったり、偽者だったりなんですが・・・。
少しでも楽しんでいただけたら良いと思います。
そして甘いシーンはこれ以上は無理です。管理人が恥ずかしすぎて、もう無理です。←

ではでは、お粗末さまでした!!


2012.3.17