「って、このクッキー誰かに渡したりする?」
隣で微笑む友人に言われて、やっと今日がバレンタインデーだったと気づきました。
うん、自分でも女子高生として終わってるなーとは思いましたよ。
でも仕方ないじゃないですか。忘れてたんだから、仕方ない。
今現在、私は学校の調理室でお菓子作りに勤しんでます。
授業中なにやってんだよ、と言うかもしれませんが問題ない。今は調理実習だ。
私は授業の中ではいちばん調理実習、というか家庭科が好き。
何故なら、得意分野だから。
料理は家での当番なので毎日つくってるし、お菓子作りも好き。
そんな私はいつも通りお菓子作りに勤しんでいたわけですが、
ふと周りの異常さに気づいた。いや、朝から「なんか変だなー」とは思ってたよ?
でも単語覚えるのに必死だった私は、すっかり気にならくなったわけなんです。
そして、いまの3時間目。
調理実習で今日のお題であるクッキーを作っていたところ、同じグループであり友人である七瀬ちゃんに言われて気づいた。
(あ、今日バレンタインデーか)
道理で周りが妙に浮ついていたわけだ。
道理で妙にピンクがふわふわしてたわけだ。(そこ、おかしいとか言わない!)
道理で先生達の目が変に鋭かったわけだ。
あー、なるほど。
やっと合点が言って納得しながら、いまだ私の手は止まらない。
今はクッキー作りで重要な生地こねなのだ。手が離せない。
(生地こねといえば、最近の女子は長い爪のままやってるのを見るんだけど、すごい不衛生だと思う。切れよ、と料理好きの私は思うわけ)
ふと目線だけを横に走らせて見ると、隣で何処か期待に満ちた目でみる七瀬ちゃん。
え、わたし何を期待されてるんですか。
それで、さっき七瀬ちゃんに言われた言葉を思い出し納得する。
「んー、どうかな」
「えっ?!それって、どういうことー?!」
私があいまいに答えれば、一気にテンションが上がる七瀬ちゃん。
…やっぱ女の子ってこういう話題好きだなあ。
いや、まあ私も一応女子なんですけどね。あんまり興味ないというかね。
隣で(さらに)目を輝かせ、「誰々??誰にあげるのー?!」と興奮する七瀬ちゃんを視界の隅にいれながら、私はさらに手を動かす。
こねりにこねた生地を適当にちぎり、手の上で転がす。
お、いい形にできた。
「ほらほら、七瀬ちゃんも手動かして」
「はーい。ねー、誰なのー?」
「どーでしょー」
「余計気になるんだけどー!!」
声をかけ、生地を型づくるようにたもす。
私が声をかければ、七瀬ちゃんは渋々といった感じで生地に手を伸ばす。
けど、その手はあまり動いていなくて私にまだ輝いた目を向ける。
・・・そんなに気になるのか!
まあ、わざと気になるように私は言ってるんだけど。ぶーぶーと文句をたれる七瀬ちゃんに苦笑する。
ぶっちゃけ、今のところあげる予定はない。
というか、七瀬ちゃんに言われるまで自分で食べる気満々だった。
勿論、今日がバレンタインデーだったなんて忘れてたわけだし。
そもそも好きな人なんていないわけなので、あげる人はいない。
父親や兄貴には、市販のポッ○ーで充分だ。
気になる人がいるわけでもなし、御礼をしたい人がいるわけでもなし。
義理チョコ…は面倒だから、あげる気にもならん。
女子としては冷めたものかもしれないが、…本当にあげたいと思う人がいないのだ。
あ、でも友チョコはあげたいなぁ。
…1日遅れで渡すか。
「ー、全部おわったよー」
「あー、おっけ。じゃ、オーブンに入れようか」
「はーい」
七瀬ちゃんに言われて気づいたが、私が考え事をしている内にすっかりボウルにあった生地は消えていた。
その代わり、クッキングペーパーには可愛い形にまとめられたクッキー(生)。
そのクッキーたちを、大きなお皿に置き換えさきほどまで温めておいたオーブンにいれる。
慣れた手つきでボタンを押せば、動き出すオーブン。
オーブン内で焼かれるクッキーたちを、私は何処か遠い目で見るのだった。
*
時は過ぎ、昼休み。
がやがやと教室は騒がしく、無意識に溜息が出てしまう。
私は弁当と…なんとなく先ほど作ったクッキーを持ち教室を出る。
いつもなら友達数人と食べるのだが、今日は一人で食べたかった。
なんでかって?
今日がバレンタインで女子による戦が開戦されるからさ。
向かうのは屋上。
なんとなく昼食の定番!という感じだが、生憎我が校は立ち入り禁止だ。
・・・私は入っているけど。
屋上に繋がる階段は黄色いテープが阻んでおり、入れなさそうな気がするが
実は鍵が壊れているため、すんなりと入れるのだ。それを去年の夏に知った私は、たまに利用するわけ。
私以外にも知っている生徒は数人いる。
・・・残念なことに。
いつものようにテープをかいくぐり、ドアノブを回す。
「おー、いい天気だー。」
ギィっと何とも鈍い音を立て、ドアを開けた瞬間涼しい風が頬をなでる。
ドアを開けば、青い空が目の前に広がっていた。
今日は2月にしては暖かい、ぽかぽか陽気。・・・風は少し冷たいけど。
風でたなびく髪をおさえつけながら、フェンスの方へ歩く。
フェンスによりかかり、その場にストンと腰を落とす。
ここはもう定位置となってしまった。夏はタンク元がいいんけど、今はなんとなくフェンス元に座りたかった。
特にワクワクするわけでもなく、弁当のふたをあける。
別に自分の作った弁当なので中身も分かるから、ワクワクはしない・・・。
いや、お腹空いてるから食べれるのは嬉しいんだけどね。
体は正直なもので、弁当の中身が次々に消えていく。
そんなにお腹空いていたのか、私よ・・・!
次々に箸をすすめていると、突如聞き慣れた声が上からふってきた。
「おー、美味しそうな弁当だねえ。さっすが♪」
・・・こんな軽い調子の人物はアイツしかいないな。
まあ、顔を見なくても分かるんだけど一応顔をあげてみる。
そこには予想通り、(大変・非常に残念だが)見慣れた顔があった。
にこにこと、明るい調子で声をかけてくるソイツに無意識に溜息をつく。
「・・・なんだ、佐助か」
「ちょっ、なんだって酷くない?!しかも今、溜息ついたよね?!ね?!」
「気のせいだ。気にするな」
「気にするよ!、なんか俺様に対して冷たくない??俺様かなしー!」
勝手に悲しんでろよ、と心中悪態をつく。
おいおいと泣きまねをする人物・・・もとい猿飛佐助。
このどこまでも軽い調子の男は、残念なことに幼なじみである。
物心ついたときには常に隣に居て、不思議なことに学校も・クラスもずっと同じだ。
佐助は「ひどーい」とか言いながら、断りなく私の横に腰を落とす。
いや、佐助が「座っていい?」なんか言うわけないのは分かりきったことか。
というか、いつのまに私の隣に居たんだ。
気配を全然感じなかったんだけど。
なに、私それだけ弁当に集中してたの?
私は箸をとめずに、佐助に喋りかける。
・・・なんとなく気まずかったから。うん。それだけ。
「てか、佐助なんか用?」
「え?屋上に向かうをみかけたから、一緒に弁当食べようかと思ってさ」
「・・・暇人」
「またまたー。そんなこと言って照れてるんでしょ?んふ」
いや、本音なんだけどね。
まあ、佐助が思ってるんならもういいよ、それで。訂正するのさえ面倒だ。
というか、佐助チョコ一つも持ってなくないか?校内で5本指に入る佐助が?
あ、もしかして逃げてきたのか。私を見ただけで来るなんて、ないない。あっはっは。
やけに上機嫌な佐助は、手に持っていたらしい弁当をあける。
・・・いつ見ても豪勢だよなあ。
なんか真田くんの分も作ってるらしいし。…ますますオカンに磨きがかかってきてるなあ。
私はもう食べ終わったので、食べてる佐助を観察。(
正確には弁当を)
いや、やっぱ美味しそう…。
ボリュームあるけど、ちゃんと栄養バランスの考えられた献立だ。
うわ、あの厚焼き玉子とか輝いて見える・・・!
さっき昼食を食べたばかりなんだけど、すっごい食欲をそそられるんだけど。
ついついその弁当に見入ってしまう。
その視線に気づいたのか、ふと佐助が声をかけてきた。
「なになに?、俺様の弁当のおかず欲しいの?」
「うん」
「即答かよっ!食べ物に関しては正直だよね…!」
否定はしない。
私というか、うん、私のお腹が正直なんだよ、佐助。
ちょっと佐助の言い方にイラついたが、そんなことは気に留めないくらい食べたかった。
いや、だって厚焼き玉子輝いてたんだよ?あれ絶対美味しい…!!
早く早く、とでも言うかのような視線を佐助に向ければ、はあと溜息をついたが次の瞬間には笑顔の佐助がいた。
「はい、どーぞ」
「ん」
「え」
え、ってお前が仕掛けて来たんだろう。
今、私は佐助にいわゆる「あーん」状態をしてもらった。
いや、だって私のお箸片付けちゃったし。佐助が厚焼き玉子をつかみ、私に向けてきたので私はそれを素直に食した。
箸から口を離し、もぐもぐと味わう。あー、やっぱ美味しい。
佐助の厚焼き玉子を食べれ満足している私とは反対に、唖然としている佐助。
え、なに。食べちゃ駄目だったんですか。
「あの、さ。。気にしないの?」
「なにが?あ、佐助相変わらず美味しいよ」
「え、あ、うん。って、そうじゃなくて!…いや、それ、俺と間接・・・」
「・・・?」
何を言いたいんだか分からない。え、間接キスだとか?
いやいや、なにを今更。私ら散々してきただろう。今更気にも留めない。
というか、今は厚焼き玉子の方が重要だ。
私が首をかしげると、佐助ががくっとうなだれた。
え、なんなんですか。ホントさっきから意味わかんないんだけど。
佐助はというと「・・・マジかよ」とか言いながら頭を抱えている。
・・・私なんかしたのだろうか。
よくわかんないけど、きっとなにかしたんだろう。…わかんないけど。
どうしたものかと考えていると、ふと視界にあるものが入る。
…あ、そうだ。うん、丁度良いし。そうしよーっと。
「佐助ー」
「…なーに?」
「これ、ん」
「…これって、調理実習の?」
「そ、佐助にあげるよ」
そう、今の私の手の中には例のクッキーが。
なんとなく持ってきておいてよかった。別にあげる人はいないし、佐助にでもあげよう。
さっきまで考えていたんだけど、やっぱり思いつかなかったし。
真田くんにでもあげようかなーと思っていたんだけれど、佐助ならいいか。別に、嫌いではないし。
私がクッキーを差し出せば、佐助は一瞬嬉しそうな顔をしたけど
すぐに複雑そうな顔をする。眉をハの字にさげている。
え、佐助ってクッキー嫌いだっけ?
私がちょっと心配してると、佐助がこっちを見て口を開いた。
「…、これ意味わかってる?俺様、期待しちゃうんですけど」
「え?なにが?」
「…鈍すぎるんですけど。ていうか天然なの?ねえ、あー、もう…」
期待ってなにが?あ、味のことかな?いや、結構自信あるから良いけど。
で、意味って…なんの?鈍い、って佐助は溜息をつくけど本気で意味が分からない。
私がしきりに首をかしげると、佐助は本日何回目か分からない溜息をつくと
急にずいっと私に近づけてきた。か、顔ちかっ・・・!!
「俺さ、が好きなんだよね」
「・・・はい?いや、私も嫌いではないけど」
「は幼なじみとして、でしょ?俺は、女の子としてが好きなわけ」
「……っ???!!!」
「…もー、鈍すぎ。俺、ずっとアピールしてたつもりだったんだけど」
私の隣で苦笑する佐助。
え?え?え??佐助が、私を、好き?
幼なじみとしてじゃなくて、異性として?いや、ありえないだろう。
あの佐助だ。学校でも指折りのモテ男の佐助が、私を好き?
冗談か何かかとも思ったけど、その眼差しはいたって真面目で。
残念なことに、長い付き合いの私は「本気なんだ…」と分かってしまった。
やばい、絶対今の私の顔まっかだ。
自分でもわかる。確信できる。頬に熱が集中してくる。もしかすると耳まで赤いかもしれない。
いや、でも仕方ないでしょう!私、生まれてこの方告白とかされたことないし!
し、しかも幼なじみの、さ、佐助が?!
私が何を言えばいいか分からなくて、口をぱくぱくしていると隣の佐助が満足そうに笑う。
さっきまで普通に接していたのに、急に意識してしまう!!
「ま、これで今後は手加減なんかしないからね」
「?!」
「ホワイトデー、期待しててよね♪」
そう言って、佐助は嬉しそうにクッキーをかじった。
小気味のいい、パキッという音がする。
私の動悸は、いまだ鳴り止まない!
Cokkie&Love for you!
3月14日、佐助が私の作ったクッキーと同じ溢れんばかりのクッキーを私に贈るのはまた別の話。
(んー、やっぱのつくったものは美味しいねえ)(そそそ、そっか)((照れてるも可愛いー♪))
第2弾は佐助でしたああああああああ(ズシャアアアアアアアアアアアアア
主人公目線がこんなに書きやすいとは思ってもいませんでした。これからコレでいこうかしら
というかあんまりクッキー!って感じじゃないですね、すいません。
吉切の限界点でした。地面に頭めりこむ勢いでDOGEZAしますね!(ドギャアアアアア
で、なんだかというか確実に!バレンタインまでに間に合いませんでした!!!!!
全部うpするのはかなり遅れると思いますが、「まあ、待ってやらんこともない」というお嬢様方!
待っててください!まじがんばります!土日で2本ずつはうpしたいです・・・。
2012.02.16 加筆