ジリリリリリリッ







けたましい目覚ましの音が鼓膜に響く。
あー、朝か。起きるの嫌だなあ…昨日おそくまで仕事してたし。
でも、起きなきゃなあ…目覚まし止めないと…。

まだぼんやりとする意識の中、目覚ましに手を伸ばそうとする。
もう条件反射のようなもので、意識しなくても勝手に手が伸びようとするのだ。
…慣れって恐ろしいね。

ともかく、私は未だに煩い目覚ましを止めようとしたんだけども。






(・・・・・・?止まった?)




目覚ましが止まった。
いや、私まだ時計に触れてすらないんですけど。自動的に目覚ましが止まるわけもないし。

なんだこの不思議現象。いや、ちょっと恐怖すら感じるんですが!

なんで止まったのか分からなくて、確かめようと目を開けたいんだけど…こんなときにも眠気が勝つ。
哀しいかな、私は今すっごく眠い。ほんと眠い。
だって仕方ないじゃないか。昨日はあるファミリーの重要データにハッキングしてたんだもの。
なんか予想以上に厳重なロックがかかっていて。時間がかかってしまった。

と、いうわけで真相を確かめたい気持ちもあるが・・・まだ寝ていたいので私は再び意識を沈ませようとする。
が、またもや不思議現象が起こる。





「もー、センパイの目覚まし煩すぎですー。アホのロン毛隊長並の大きさですねー」




・・・はい?

なんだか聞き慣れた声が頭上でした。気のせいだよね。気のせいだろ。てか、気のせいじゃないと困る。

そういえば、…なんか温もりを感じないでもない。
あれ、意識しはじめたら何か…分かってきたんですが。
暗殺者の性かな、悲しいな!いやでも気配が分かってしまうよ!!

恐る恐る重たい瞼をあげると、…そこには(やはり)いつも見る顔があった。






「あ、おはようござますーセンパーイ」

「・・・なんでフランが私の部屋に・ベッドに居るかな」

「そんなの決まってますー、センパイの寝顔を見るためですよー」






しばくぞ。

私が(おもいっきり眉間に皺を寄せて)問えば、さらりと答えてみせる人物。
寝起きには眩しすぎる淡いルビー色。にこりと笑うその人は、私の後輩・フランだ。

今現在こやつは、私の横に堂々と寝転がっている。頬杖ついて、こちらを見ている。
ちゃっかり布団の中にも入っているし。・・・いつのまに来たんだ。
ふと見てみれば、その頭にはいつものカエルがいない。
と、いうことは結構本格的に居座ってたな、フラン…。


心中溜息をつきながら、上体を起こせば軋む体。
・・・ふふ、昨日のハッキングのせいだな、こりゃ。そうだよね、長時間同じ体勢でいればね、なるよね。

無意識に顔をしかませれば、隣のフランが声をかけてくる。






「あ、センパーイ」

「なに?」

「ハッピーバレンタイーン」

「・・・・・・」

「ちょ、センパイなんか反応してくださいよー。寂しいじゃないですかー」





いや、意味わかんない。

いまの私は最高に顔を顰めていることだろう。いや、でも仕方ないって。
何故なら、隣のフランが怪奇な行動をしたからだ。
いつのまにかフランも起き上がっていて、その手には真っ赤なバラの花束が。
大きくもなく、ちょこんと小さい可愛らしい花束だ。

で、その花束を私の方に差し出している(らしい)

ハッピーバレンタイン…



ああ、そういえば。




今日、バレンタインデーか

え、センパイ忘れてたんですかー

「うん。ここ3日ずっと部屋こもってハッキングしてたし」

「乙女として終わってますねー」

「シャラップ」

「いでっ」



後輩の可愛くない悪態に、軽く頭をはたく。

そう、今日はバレンタインデーだった。本気で忘れていた。
デジタル時計を見てみれば、「2/14 Thu」の表示。

フランが私に花束を持ってきた意味がやっと理解できる。
思いを寄せる異性に、贈り物をする日。どうやらそれは世界中どこでも同じらしい。
そういえばイタリアは、男性が女性に贈るんだったっけ。
こっちに来てから大分経つけど、これはどうにも慣れないなあ・・・。


私が一人合点していると、となりで「これを朝一番に渡したくて、センパイの部屋に忍び込んだわけですー」
とフランが呟く。

そうか、なるほd「まあ、センパイの寝顔が見たかったってのもあるんですけどー」
・・・今ので台無しだな。

心の中で深い溜息をつく。そうだ、フランはそういうやつだった。
・・・まあ、人の好意を無下にするわけにはいかないので、私は花束を受け取る。
そのとき、フランが嬉しそうに微笑んだのは・・・気のせいだ。







「で、センパーイ。チョコはー?」

ないから



             *







「・・・なんか朝から疲れたんだけど」

「うふふ、はモテモテねえ」


ソファに深く腰掛け、うなだれる。こう、ぐだーっと。
私が(心底低い声で)呟けば、隣でルッスが微笑んだ(?)



私はあの後、支度を済ませいつものように大広間へ向かおうとした。
そう、向かいたかった。すぐに。(ほんとうにお腹が空いていたから)

なのに、扉を開ければ流れ込んでくるプレゼント。
花束に、箱に、ぬいぐるみに、その他諸々が雪崩れ込んできた。これには本気で驚いた。
…多分、一般隊員からだったんだろう。
幹部なら、普通に手渡しで渡してくるからだ。

やっとの思いでプレゼントを部屋に整理し、改めて大広間へ向かった私。

大広間についた瞬間、視界が真っ赤になった。

ウチお得意の血、ではない。バラの赤、だった。
そう、大広間ではベルが待ち構えていて。私が部屋に入るなり、真紅のバラの花束を渡してきた。
そりゃあ、もう、大きな深い真紅のバラの花束を。

そのあと、急にXANXUSに呼び出されたと思ったら。
ベルに負けないくらい大きな、真っ赤なバラと、新型の銃を貰った。
いや、銃は本気で嬉しかった。私が前から欲しがってた、ちょっと高めの銃だったから。
だけどね、XANXUS。こんな大きなバラの花束、どこに飾れと。


その後、廊下を歩いているだけで隊員たちが何処からともなく涌き出て(?!)
私は朝ご飯を食べる暇なく、プレゼントの整理をするのだった。

ちなみにルッスからは「友チョコ」ということで、上等な生チョコを貰った。(これは素直に嬉しかった)
そして、本気でレヴィが任務でいなくてよかったと安堵した・・・。


そんな感じで、私はやっと先刻朝ご飯を食べれたのだ。



深い溜息をつく私に、ルッスは「はい」とホットココアを差し出してくれる。
そして、さり気なく私の横に座り込む。
・・・一応、オカマなんだよなあ。本気で忘れてしまう。

そんなことを考えていると、隣のルッスが声をかけてきた。





「で、。アナタ、チョコないんですって?」

「あー、うん。そーなんだよねぇ…。」

「まあ、アナタ3日も部屋に篭もってたものね…」

「・・・おかげで節々が軋むよ・・・」

「お疲れ様。他の男どもが、のチョコ欲しがってたのに…残念ねえ」





そうなのだ、それが不思議でならなかった。
女性が男性にチョコを贈るのは日本限定なのに、なんで知っていたんだ。
フランをはじめとし、ベル・XANXUS・・・みんな期待に満ちた目で見てきた。
(XANXUSが欲しがっていると分かったときは、腰を抜かすと思った。本気で)

でも、残念ながら私はチョコを作ってもないし、買ってもいない。
くどい様だけど、3日間私は部屋に篭もってハッキングしていた。
外界(とは大袈裟かもしれないけど)の情報など、その間は皆無。
ご飯はルッスが時々、届けてくれたので生き長らえたけれど。
ハッキング中の私は意識を完全にそちらへ向けているので、誰かが話しかけてきたとしても気づかなかっただろうし。






「・・・で、どうするの?」

「・・・なにが」

「もう、とぼけないでちょうだい!スクアーロのことよ」




・・・あ。
今更気づき、「しまった」という顔をする私にルッスは溜息をつく。


 私、ヴァリアー雲の幹部・は、雨の幹部ことスクアーロと恋人関係にある。
もう10年は付き合っているんじゃないかな。

ルッスにいわれて気づいた私は、内心焦る。
毎年わたしはスクにチョコを渡していた。スクからも毎年、贈り物を貰っていた。
恋人として、やはり贈りたい。


今から買い出し・・・だめだ、きっとどこも買えるような状態じゃない。
というか、私の軋む体が拒絶反応を起こす。



私が悶々と、ぶつぶつと考えていると…足音が聞こえてくる。
それは何処か軽い足取りで、この大広間へ近づいてくる。
…足音だけで誰か分かってしまう、悲しい暗殺者の性にまたもや肩を落とす。





「うぉおおおおおおい!!!!、ここかァ!!!」




…噂をすれば影、というやつかな。

足音の主は、予想通りだ。私の恋人である、スクアーロ。
彼は(行儀悪く足で)扉を勢いよく開け、毎度の事ながら叫びながら部屋へ入ってきた。

…そして、その手には真っ赤なバラとラッピングされた箱。


入るなり私を見つけると、ずかずかと此方へ歩を進めるスク。
その顔はどことなく嬉しそうだ。・・・あれ・・・なんか罪悪感が。


私の前まで来ると、膝を突きその両の手にあるものを差し出してきた。





「今年も愛してるぜぇ、




そしてそのまま、当然の流れのようにキスをしてくる。

いや、嬉しいんだけどスクさんや。確かに今の私は、嬉しくてちょっと顔が赤いかもしれないけど。
隣にルッスがいるんだよ!イタリア男だからって、ちょっとは気にして欲しいかな!!
ああああ、ほらルッスが隣でニヤニヤしてるって!「あらあら、まあまあ」とか言ってるよ!
もう完全、近所のマダムのノリなんですけど!!

 暫くして、ちゅ、ちゅ、と短いキスの雨から私は(やっと)開放される。
 と、ともに。




(あああああ、そんな期待に満ちた目で見ないで!)


いつものは?とでも言うかのように、スクはわたしの目を見る。
毎年、このあとに私も「愛してるよ」とか恥ずかしすぎるセリフを吐きながらチョコを渡すところなんだけど。
残念ながら、今年はチョコがない。

重すぎる口を開きかけたとき、
隣のルッスが先に口を開いた。





「残念ねぇ、スク。今年は、チョコ持っていないわよ」

「なっ?!!」

「3日間も仕事で篭もってたのよぉ、ねえ?」

「え、あ、うん」



なんでルッスってこういうとき、ズバズバ言うかな!!いや、ほんと吃驚するんだけど!
ルッスの言葉に頷けば、さらに肩を大きく揺らすスク。
目をこれでもかってほどに開けてる。
ごめん、スク。ほんとにチョコ持ってないんだよ。ほんとごめん。

実はスクは長期任務に行っていたので、私が3日も部屋でハッキングしてたなんて知らない。
目の前の彼は、まだ目を見開いていて…言葉も出ないのか。
というか、そんなに楽しみにしててくれたんだろうか。
もし、そうだったとすれば本当に申し訳ない。


私が言葉をかけようと口を開きかけたとき、ピリリリリという機会音が聞こえてきた。

スクの伝令機だ。

軽い放心状態だったスクもさすがにそれには気づいて、急いで応答する。
いくつかの返事をしたあと、急に経ちあがるスク。
そして、「ちょっと行ってくるぜぇ」と言い残し、足早に去っていった。




スクが出ていった後、ルッスと私だけの大広間。しばらくの沈黙。




(・・・めっちゃ落ち込んでたよね?!!あれ、絶対落ち込んでたよね!)




本人は表に出さないようにしていたかもしれないが、私には分かってしまった。
ちょっと眉が下がっていたし、去っていくときの背中が何とも悲しそうだった。

・・・確か、厨房にある程度のフルーツがあったはずだ。チョコは、私の非常食である板チョコがある。
・・・やるしかないだろう、これは。




             *




今、私はスクの部屋の前にいる。

右手には、銀色のお盆。そのお盆の上には、さっきまで作っていたもの。
限られたものしかなかったけど、なんとかなった・・・!

一呼吸し、目の前のドアをノックする。





「スク、ちょっと良い?」

「…お゛ぅ、入れぇ」






スクの声を確認し、ドアを開いている方の手で開ける。
ドアを開ければ見慣れた部屋。
スクはというと、…ベッドの上で剣の手入れをしていたのかな。

ベッドに近づけば




(・・・・あああ、やっぱり・・・)




完全にスクは拗ねてる。もう残念がってるとか通り越して、拗ねてる。
一般人が見れば、「殺気立っている」と勘違いすると思うけど。
長年の付き合いは伊達じゃない。今のスクは、完全に拗ねてる。

…そんなスクさえ、可愛いなあとか思ってしまうあたりは恋人だからだ。





スクの横に、ぽふんと腰掛ける。
それに少し驚き、剣の手入れをしていた手を止めるスク。…ああ、顔がちょっとむすーってなってる。
本当に可愛いなあ。

思わず笑みを零してしまえば、スクは「…なんだぁ」と声をかけてきた。
なんでもない、とまたもや笑いながら言うと、・・・あ、ちょっと機嫌なおったかな?


可愛い恋人に微笑みながら、私は右手にあったものを差し出す。





「はい、スク。ハッピーバレンタイン」

「・・・ないんじゃなかったのかぁ」

「さっきはね。でも、やっぱりスクにはあげたかったから急いで作ったよ」



銀のお盆の上には、チョコフォンデュ。
苺、バナナ、オレンジ、などなど。カラフルなフルーツに、シックなチョコ。

あの後、私は急いで厨房に向かった。
運良くあったフルーツに、自分の板チョコを使って急遽作ったのが、このチョコフォンデュ。
即興で作ったものだから心配はあったけど、意外と上手くやれた。


私がそれを差し出せば、最初はむすっとしたままのスクだったけど。





「・・・

「はいはい」






ぽつりと零した私の名前。
それに苦笑しながら、私はチョコフォンデュにフォークを差す。

多分、というかこれは「食べさせろ」ってことだろう。
またもや可愛いスクに笑みをこぼしながら、私はチョコフォンデュをスクの口にいれる。


しばらくは咀嚼していたスクだったけど、しばらくして口を開く。





「…やっぱの作ったモンは、美味ぇ」

「ふふ、気に入って貰えたようで良かった」






口角が、にぃっと上がるスク。
機嫌は完全回復したようだ。・・・よかったよかった。


すっかり機嫌がよくなったスクに安堵する私。

と、いつのまにかスクが私に急接近していた。…一応私、暗殺者なんだけどなあ。
そんなことを考えていれば、目の前には熱の篭もった視線のスク。



私のあごに指を添え、くいっと顔を持ち上げる。
私はといえば、それを普通に受け入れているだけ。






「…−―。愛してるぜぇ」

「…ん、」




スクの顔がより近くなり、私の唇に温もりが触れる。

深くいて、大切に、慈しむように、それでいて貪るようなキス。
ディープなものだったり、呼吸ができないほど激しいものではないはずなんだけど。
・・・やけに顔が火照る。

スクとは何回もキスをしているし、それ以上のこともしたけれど。
やっぱり、こういうのが私は一番落ち着く。
温もりを確かめるような、スクとのキスが好きだ。



何回も角度を変え、しばらくして唇と唇が離れる。
離れ際に、ちゅ、と小さなリップ音をスクは立てる。

目の前には、まさに満足そうな顔のスク。顔が少し火照っている。
やけに熱の篭もった眼差し。・・・これに弱いんだよなあ、私は。

キスが終わったかと思えば、次の瞬間には組み敷かれていて。
 ・・・これもヴァリア−クオリティなのかな。
いつのまにかチョコフォンデュの乗ったお盆は、近くの机に置かれている。
いや、ホントいつのまに?
いくらスクアーロだからって、手が伸びるわけじゃないだろう。


とか、少し外れたことを考えているとスクの顔がまたもや近くに。




「で、はどうなんだあ?」




ニィっと、嬉しそうに笑みを綻ばせながら問うスク。

・・・分かってるくせに、どうしても私の口から聞きたいんだろうな。


そんな可愛い恋人に、私は甘い言葉を囁く。




「・・・私も、愛してるよスクアーロ」








君に、酔い 溶ける






次の瞬間、とびっきり嬉しそうに微笑む君を見て
しあわせだなあ、とか思っちゃうあたりはかなりの惚気。

あ、チョコ溶けちゃうなあ。








((チョコもいいが、やっぱりが一番だなぁ゛))((・・・なに考えてんのかな、この人は))













バレンタイン企画、第4弾はREBORN!からスクでした!
甘ァっ!!糖尿病になっちゃうよ、うへえ・・・
もうこれが今の吉切の限界でした。これ以上は、吉切の顔から火炎放射です

それにしてもカッコいいスクが書けません。スクの口調分かりません・・・。
にせものスクで申し訳ない(スライディング土下座)

ちょっとでも幸せな気分になってもらえたら嬉しいです^^*
(予想以上に長い文になってしまい、申し訳ないです・・・。)

2012.02.25