2月14日。
それは、男女ともに天下分け目とも言えよう合戦日。

自分の身の丈を甘味に託す者。
義理チョコを配りに配る者。
まだかまだかと、異常なまでにソワソワする者。
興味なさげに見せかけ、チラチラと机の中や下駄箱を確認するもの。

日本全土、いや世界各地が浮かれに浮かれる日。

そして、この者も例外ではなかった。










             *








あ、足取りが軽いのか重いのか分からぬ…!

いつも通りにせねばならぬとは思うのだが、どうにもならぬうううううう!!






今の某は少し・・・いや、かなり怪しいだろうと思われる。
だ、だがっ!それも仕方のない事なのだ・・・っ

  ふとケータイのカレンダーを見てみると、そこには『2/14』と表記されている。


そう、今日はいわゆるバレンタインデーというもの。

某も立派な男・・・心が浮き立たぬ訳がないのだ。
周りをチラ、と見てみると某と同様に何処か落ち着かぬ皆…。そんな様子にどこか安堵する。





まっすぐに玄関へ向かい、自分の下駄箱を開けると


どさささささささささ








「・・・」

「いやー、旦那すごいねー。漫画みたーい」







下駄箱の中から雪崩の如く流れ出てきた贈り物。
それは、紛れもなくチョコだ。どれも可愛らしくラッピングされている。

・・・某の内履きが見つからぬほどの量だ。


その様子に唖然としていれば、後方から声をかけてきた人物。
もちろん、佐助だ。
某の様子を見てすごいと言うが・・・









「そういうお前も凄いではないか。」

「えー?そう?俺様としては、荷物増えるだけなんだけどねえ」






そうニコニコしながら、両腕にぶらさがる袋…大量のチョコを見て言う佐助。
今、佐助の両腕には袋いっぱいのチョコがある。
しかも、その袋がごみ袋というのだから…チョコに失礼ではないのか?

ふと、自分の下駄箱から流れ出たチョコに視線を戻す。









「「・・・」」


「・・・旦那、袋あまってるから貸したげよーか・・・」

「・・・うむ、すまぬな」









・・・察しの良い友人がいて助かったでござる。



佐助から袋を譲り受け、なんとか教室までチョコを運ぶことができた。
下駄箱だけでもごみ袋がいっぱいになるほどあったチョコ。
一体、今日だけでごみ袋何枚分になるのだろうか・・・。



教室に入れば、予想通り机にもいっぱいのチョコが。
机の上、中、椅子にまである…なんというか、すごいでござる。








「おー、真田。お前すげえな」

「元親殿。おはようござりまする。」

「おう、はよーさん」






またもや某がチョコの山の前で立ち尽くしていると、元親殿がやってきた。

・・・ん?元親殿が遅刻しないで来ている??
天変地異の前触れでござろうか。


その元親殿は、「うわー、すげー量だな」とかいいながら某のチョコの山を見る。
そういう元親殿の机にも、チョコの山が見えるのは某だけではないだろう。
その手にも数個のチョコもある。
元親殿は不良の頭だし、怖い印象だろうが・・・根はいい人であって世話焼きである故、もてる・・・らしい。(佐助が言っていた)



某がいまだチョコの山が健在な机の前でぼーっとしていると、
元親殿が心配そうに声をかけてきた。









「おい、どうした真田?お前、こんなチョコあんのに嬉しくねぇのかよ?」

「む、無論嬉しいでござるよ」

「そうかぁ?その割にゃあ、浮かない顔だが」





元親殿の察しは、間違ってはいない。
正直に言えば、複雑な心境でもあるのだ。


去年までは、嬉しかった。何より、タダでこんなにも多くの甘味を食せるのだ。
嬉しくないわけがないのだ。
大量にあった甘味も、3日もすれば姿を消した。

だが、今年は違う。
無論、甘味が貰えるのは嬉しい…と思うのだ。
自分でもよく分からぬ!!

ただ、






(お、想い人がいる某が貰ってもよいのだろうか・・・)







某とて、バレンタインデーの意味を知らないわけではない。
女子が好意をよせる男子に、チョコという形で贈り物をする日。
それ故、今某が持っているチョコの山は…某に好意を寄せる女子からのものだと、思うのだ。



某には、昨年の夏ごろに、こ、恋人が、できた。
某が思いきって告白したところ、よい返事がもらえたのだ。
付き合ってから数ヶ月経つが…想いは募る一方で。


チョコの山に目を向ける。








・・・やはり、本命から貰わねば意味がないな







ふう、と息をつきチョコの山を片付けはじめる。
溜まりに溜まったチョコをどうしようか、なんて考えながら手を動かしていると

ふと聞き慣れた、愛しい声が聞こえてきた。










「おはよー、幸村!チョコ大変そうだねー」

「っ!殿っ!!おはようござりまするっ!!」

「あはは、おはようござりまするー。爽やかな笑顔だねー」







いつのまにか某の後ろに、一人の人物が。
その人は、白色の小袖に紺色の袴をはいており、髪の毛はヘアバンドであげている。
某におはようといったその顔は、どこまでも某の好きなそれだった。


この人物こそ、某のお、想い人でありっ!
こここ恋人、の、殿。


今は朝なのだが、なぜか殿は稽古着。(殿は弓道部に所属しているのだ)
             ・・・朝練でもしていたのだろうか。



某と殿が喋っていると、ついさっきまでチョコの山を凝視していた元親殿が割って入ってきた。









「おー、。チョコくれよー」

「なっ?!元親殿??!!」






いいいいいきなり何を言い出すのだ、元親殿はっ?!
元親殿は、某と殿がつ、付き合っているのを知っているはず!な、なにゆえ?!
ま、まさか元親殿も殿を…?!
(※元親はいたって軽い気持ちです)


うっかりチョコが山ほど入った袋を落としそうになった某に対して、へらへらと笑う元親殿。

すると、殿は一瞬目を見開いたが次の瞬間には呆れ顔で言葉を紡いだ。








「元親くん。それは休日にみっちり合宿へ行って、休む暇もなかった私への嫌がらせですか?               そうなんだな?そうなんだろ、おい」

「あ?合宿だったのかよ?」

「そうなんだよ、まったく。もうすぐ大会近いからさー」








そう言って溜息をつく殿。
・・・そういえば、そのようなことを申されていた。

元親殿はというと、「それなら仕様がねぇな」といって席に戻っていった。
そんな様子に安心する。



と、共に疑問が。




む?
と、いうことは?

某への、チョコ、もなし・・・?!!




ひたすらにショックを受ける。
た、確かに殿は部活熱心で!某もそんな殿が好きだが!!
ま、まさかこんな事態になりえろうとは・・・!!

け、計算外でござるっ!!



と、某が脳内で沈んでいると殿がふと、横から声をかけてきた。









「あ、幸村。今日の放課後っていい?」

「む?あ、ああ。」





今日は顧問であるお舘様が出張故、部活がない。
委員会には属しておらぬし、何も予定はなかったはずだ。

某がそう言えば、 殿は…とても嬉しそうに笑った。









「おし。じゃ、放課後一緒にかえろー」

「む、無論でござる!」

「じゃ、放課後ねー」






とても上機嫌で、軽い足取りに見えるのはきっと気のせいではないだろう。
時計を見ればHR5分前。
殿は、「あ、やば!」と慌てて教室を出る。
・・・そういえば、殿はまだ稽古着であった。
きっと着替えにいったのだろう。


それにしても、放課後・・・一体なにがあるのだろう。
             殿から、しかもあんな嬉しそうに帰りを誘われたことはない。
いつも某が、殿の部活が終わるのを待っているからだ。


なにも予想ができぬまま、某は席に着いた。 (・・・チョコはどうしたものでござろうか)


















放課後。ついに放課後が来た。
チャイムがなり、終学活が終わった瞬間、殿が某のもとへ来た。


学校内で、て、手をつなぐのはいささか恥ずかしい為、敷地内では隣並んで歩くだけ。
玄関まできたところで、様々な部活の掛け声が聞こえてき、ふと気づく。








殿。部活はどうされたので?大会が近いのでは…」




そう。朝、殿自身がいっていたことだ。今、某たちは部活をせずに帰ろうとしている。
某がそう言えば、殿は苦笑して言った。



<「んー、大丈夫だよ。今日の分は、朝にやっといたから」




そう笑う殿。
そういえば朝は稽古着であった。
今日の分・・・今日の分?確か、弓道部は4時から7時近くまでやっていたはず。
HRは8時開始であったから、・・・5時には朝練をしていたのでござるか?!
そ、そんな朝早くから??
某が所属しているサッカー部でも、そんな朝は早くない。
というか、そんな朝早くに学校へ入れるのであろうか。も、もしや特別許可を・・・?



某が悶々としていると、殿がふと某の手をとる。

それに以上に反応してしまう。(ま、まだ慣れぬ・・・!)
某が殿の方を見れば、そこには少し目元を赤らめて笑う殿が。








「今日の放課後は、どうしても幸村と過ごしたくてさ」





そうにこりと笑う彼女は、いくらなんでも反則でござろう。








             *








あのあと、学校を出て色々とでかけた。
久しぶりに二人で色々と廻ったものだから、少し緊張した。

             久しぶりに殿と過ごし、その時間があまりにも楽しすぎたゆえ
チョコのことなんかすっかり忘れてしまっていた。




道を歩いていると、殿が「あ」と声をあげる。
その視線の先にはコンビニ。

なにか買いたいものでもあるのだろうか?と某が考えていた矢先、
見つけるや否や



「ごめん、幸村!ちょっと待ってて!」



とだけ言い残し、すぐさまコンビニへ入っていった。
彼女の言うことだから、すぐに戻ってくるんだろう。



そして、今に至る。
某はコンビニの前で殿を待っている。
少し寒い。それもそうか、今は2月であるし。吐く息が白い。








「ごめん、幸村!寒かったよね!」

「あ、殿。大丈夫でござるよ」





突如殿が声をかけてきた。買い物が終わったのだろうか。
ふと彼女の手元を見てみると・・・、異様なまでに膨らんだ袋が。
一体何を買ったのだろうか。

某が袋を凝視していると、殿が声をかけてくる。







「幸村、手だして。両手」

「??こうでござるか?」





言われるがままに両の手を差し出す。
と、次の瞬間。




「?!!」

「あ、幸村落とさないでね」





どささささささ、と某の手には大量のチョコが。
それはよく見かける、小さな可愛らしいチョコだ。
殿がさっきまで沢山入っていた袋を逆さにし、某の掌にそれを落としているではないか。

その量は半端ではなく。
少しでも動いたら全部落ちそうな勢いだ。








殿?」

「ハッピーバレンタイン、幸村っ!!」






今、掌にあるチョコを落とさぬように必死だった某。
いったい何事かと問いかけて見れば、殿の紡いだ言葉に余計混乱する。

い、いまなんと申された・・・?





「ごめんね、幸村。こんなお粗末なもので。ずっとチョコ渡したかったんだけど、時間なくて…」

殿・・・」

「このチョコの数が、わたしの幸村への想いっ!!以上っ!!」








そう言う殿の顔は、真っ赤で。
そんな様子に酷く胸が高鳴る。本人に言ったら怒られそうではあるが、ひどく可愛らしい。
自然と頬がゆるむ。口角が上がるのが分かる。


さっきまで寒くてかじかんでいた指先なんか気にならぬ。



ああ、今、自分はとても幸せだ。今朝もらったチョコなんて目じゃない。








「ありがとう、

「っ??!!ど、どういたしまして?!」






チ ョ コ の 数 = き み へ の 想 い


翌日から、彼女の呼び方と口調が変わるのは言うまでもなかろう。
そして、「来年こそは手作りを贈るね」と笑った彼女に心打たれるのも言うまでもない。






(それにしても大量でござるな・・・)(あはは、箱ごと全部買っちゃった)(?!)





Photo by 「戦場に猫」














バレンタイン企画第一弾は、幸村でした´∀`*
完全見切り発射でございますwwwwww青春だな、おい!
すいません、ゆっきーの口調がマジでわからんでした。てか、急いで書いたもんで…2時間とか自分オワタ
甘を目指しましたが、どうでしょうか?
少しでも楽しんでいただけたらなー、と思いますv

2012.07.28 改訂