(・・・お)
白い吐息を出せば、ゆらゆらとそれは消える。
気づけば真っ白な雪が、ちらほらと。コッチで雪が降るとは珍しい。しかも、こんな季節に。
濃紺の空から落ちてくる白い雪は、どこか雰囲気があって俺は好きだ。
すれ違う人々。
町中綺麗にライトアップされており、町はかなり賑やかだ。
すれ違う人は、恋人ばかり。そんな様子が何処か微笑ましい。
今日は、2月14日。世間一般で言う、バレンタインデーだ。
日本では女性が好意を寄せる男性に贈り物をする日。友チョコだとか義理チョコだとか、逆チョコやらもあるらしいが。
街中ですれ違う恋人たちは、きっとそれだからだろう。
成功する奴や、好きな奴からチョコ貰えなかった奴だとか賑やかな日だ。
ああ、学生時代が懐かしいな…。そういえば政宗様も毎年物凄い量を貰っていたな。
まあ、今年の俺にも関係がないわけではない。
俺は一応(というのはいささか可笑しいが)、結婚している。去年の春、籍を入れた。
所謂新婚、だ。
相手の名前は、。
年は俺と同じで、ファッションデザイナーとやらをやっている。
仕事もやって、家事も疎かにしないのだから大したものだ。
彼女とは、高校のとき知り合った。1回だけ、同じクラスになっただけ。
それでもやけに、俺の心に・記憶に残っていた。
特別仲が良かったわけでもなし、全然接点がなかったわけでもなく。それなりに交流はあったと思うが。
そんな彼女と過ごしたのは1年だけだったはずなのに、俺のその年はやけに充実していた気がする。
彼女と居る時間が、何故か楽しみだった。
言ってしまえば、柄にも無く俺は恋をしていたんだ。恐らく、初恋。・・・滑稽だな。
まあ、思いの丈を伝えるわけでもなく卒業した。
そんな勇気もなかったし、まあ迷惑だろうなとか思ったからだ。
なんだかやるせない気はしたが、物凄く後悔したわけでもなかった。俺の味気のない青春はそこで、終わったと思ったんだが。
卒業してからも、彼女が俺の中で消えてくれなかった。
何年たっても、彼女の姿は鮮明で。朧気な筈なのに、やけに綺麗に焼きついてて。
時々「今、アイツは何をしているんだろう」とか思ったりしてしまったり。
中々忘れられない俺自身に、俺はただ溜息をつくだけだった。
就職して、それなりに出世して、仕事して、それなりに人生の苦汁とか味わって。
そんな日々を繰り返していたある日。
俺は彼女との再会を果たした。
場所は本屋。元々読書は好きだったので、本屋には定期的に通っていた俺。
その日もいつも通りのルートで本を見ていたんだが、懐かしい後姿を発見して。
最初は見間違いとか勘違いかとも思ったんだが、やっぱりそうは思えないと思い
『・・・、か?』
思いきって声をかけてみた。今思えば、かなり大胆な行動だったと思う。
それでも居ても経ってもいられなくて、声をかけてしまった。
俺が声をかければ、その人物は後ろを振り返り、あの懐かしい声で・顔で言った。
『ん?あ、片倉・・・くん?』
『・・・ああ、久しぶりだな』
『わー、本当に久しぶりだねえ。何年来?』
『さあな、卒業してから大分経つが・・・』
は何も変わっていなかった。
俺の好きな高くも無い低くも無い声、少し茶色がかった髪、薄化粧でも愛らしい顔。
何もかも、学生時代好きだっただった。
少し喋ってみると中身も変わっておらず、そんな様子に酷く安心したのを覚えている。
暫く話して、なんだかんだで連絡先を入手した俺。
年甲斐も無く、心中かなり喜んだ。
再会を果たして以来、ちょくちょくと俺とは再び交流するようになった。
休日には出掛けたりもした。ちょっと喫茶店で喋ったり、色々と買い物をしたり、映画を見に行ったりもしたな。
そんな感じで交流を深め、何時の間にか距離は縮まっていた。
俺とが恋人になるのに時間はかからず、何時の間にか当たり前の存在となっていて。
俺が「結婚するか」と言えば、「そうだね」とか返ってくるぐらいだった。
なんとも締まりの無い感じではあるが、それはそれで俺たちらしいとも言えた。
結婚して数ヶ月。
今日は結婚してからの初めてのバレンタインデーだ。
が、それにも関わらず俺は残業だった。
上司が俺の事情なんてしる筈も無く、当たり前の如く俺は仕事があった。
しかも今日という日に限って、いつも以上の量。いつも以上のレベル。
やけにやっかいな書類ばかりで、俺は頭を悩ませる一方だった。
やっとかっと、死ぬような思いで仕事を切り上げた頃には日にちは変わりそうで。
急いで帰ろうとしたのはいいが、事故に巻き込まれたり散々だ。
(・・・さすがに、もう寝ているか)
辺りを見渡せば、もう人気はなく。
いつのまにかかなりの時間が経っていたようだ。・・・俺も相当疲れているのか。
華やかだった町は遠く、今は冷たい住宅街の中だ。
愛しい人が待つ家へ、帰路に着く足を早める。
今日、残業があると分かったのは夕方。上司に軽い殺意を覚えたのは、俺の胸にしまっておこう。
しかもかなり長引きそうだと悟った俺は、へ連絡を入れたわけだ。
事を伝えれば最初はなんだか残念そうだっただったが、暫くすれば「そっか。仕事、がんばってね。無理はしないでね」と
いつもの明るい声が聞こえてきた。
こういうとき、物分りのいいで良かったと心底思う。
と、同時に少し寂しいと思ってしまう俺も居た。
そんなことを思っていると、もう目の前には我が家。
一応、一戸建てだ。俺とで金を出し合い、お互いの理想の家を買った。
自分の居場所と、愛しい人が居る場所というのは本当に安心するものだ。
**
玄関の電気はついていた。きっとの気遣いからだろう。本当に、こういうところまでもが愛しい。
鍵を入れ、静かに扉を開けて入れば静かな空間。
物音一つしない、静寂だ。腕時計を見れば、1時を回っていた。・・・さすがに寝ているか。
そう思い、俺は寝室もとい俺との部屋に戻ろうとしたんだが。
(・・・?電気がついている?)
リビングへ繋がる扉から、僅かに光が漏れていた。
の消し忘れかと思い、それだったら消さねばならないと俺はリビングへ向かった。
歩を進め、扉を開け、部屋を見渡せば。
「・・・、」
・・・本当に、こいつには呆れる。
俺が部屋に入れば、存外が居た。
ソファに座り寄りかかり、クッションを抱くようにして眠っている。
なんとも気持ちよさそうに寝息を立てて、だ。
その幸せそうな寝顔に微笑みがこぼれ、さっきまでの仕事の疲れなんぞ飛んでいった。
ふと机を見てみれば、ラップされた食器。
その中にはなんとも見目のよい食事。きっと俺の夕飯だったんだろう。
・・・本当に、俺は幸せ者だな。
とりあえずソファで寝ているを寝室に運ぼうと思ったとき、目の前のが身じろいだ。
「ん、んー・・・あ、れ。・・・小十郎?」
「ああ、起こしちまったか」
「んー、いいよ」
そうは言うものの、は眠たそうに目をこすっている。きっとずっと仕事をしていたんだろう。
コイツは力の抜き方が上手じゃあないからな。少し心配だ。
俺がそう思っていると、ソファに座っていたがいつの間にか俺の前に立っていて。
そして、ふにゃりと笑う。
「おかえり、小十郎。お仕事お疲れ様」
・・・本当、いちいち可愛いよなこいつは。帰宅して、俺はいつもこれに癒されている。
やはり家に帰って、「おかえり」という言葉は真面目に嬉しい。
「ああ、ただいま」と呟き、の額にキスを落とす。これもいつものことだ。
そうしてやればはまた嬉しそうに笑うもんだから、俺はますます嬉しくなる。
バカップル?上等だ。というか俺たちは新婚なんだ。これくらい許されるだろう。
額だけには収まらず、頬に、鼻に、目尻にキスをする。
そうすれば理玖は嬉しそうに、くすぐったがって身じろぐ。それがまた可愛い。
と、急にが「あ!」と何か思い出したように声をあげた。
・・・なんだ?
声をあげたかと思えば、今度はキッチンへ駆けた。
そして何やらしていると思えば、またすぐにコチラへ戻ってきた。
甘ったるい香り。
の手には赤いマグカップ。
「はい、小十郎。ハッピーバレンタイン!」
「?」
「本当はチョコ渡そうと思ったんだけど、こっちのほうが手軽だし。仕事疲れているなら、温かいココアの方がいいかな、って」
「・・・」
そう差し出されるマグカップの中には、なんとも温かそうなココア。
独特の甘い香りが立ち込める。
・・・本当にには敵わないな。
にこ、とどこまでも愛しい妻に俺はキスを贈る。
君の あたたかさ に
今年も、溢れんばかりの愛を誓おう。
愛してる、なんて言葉柄じゃないが、この気持ちに揺るぎは無い。
お前のその温もりに、甘さに俺は支えられている。
来年の今日も、お前と共に在ろう。
(小十郎!明日、休みって本当?)(ああ、たっぷり一緒に居られるぞ)
はい、ラストはBSRから小十郎でした!!
これまた遅くなって申し訳ありませぬ((゚д゚`;;;)))
遅れた割りに中身はすっからかん、甘さは何処?それに加えて短文!!!
もうこれは本気の土下座ものです・・・
小十郎が大好きなはずなのに、口調と性格が迷子です。精進あるのみですね・・・
少しでも貴方様の心が癒されるならば、本望でござりまする!!!
2012.3.17