「しーちゃん」

「・・・ねね殿。その呼び名はやめて頂きたい・・・」






今現在、私は大阪城に居る。

我が主こと伊達政宗さまの城では勿論無い。では、なぜここにいるかというとそれは簡単で。 主から秀吉公への文を授かったからだ。主からの任を遂行すべく私はすぐに大阪へ向かい、ここへ来た。 そして、つい先ほど無事に秀吉公に文を渡すことができたのだが・・・。






(・・・何故、こうなった・・・)






・・・心底理解しがたい。

私の目の前には、秀吉公の御正室・ねね殿がいる。 何故か私は座らせられ、そして私の前にねね殿も座った。・・・かなりの近距離だ。 そして、ねね殿の後ろ―…少し離れたところには3人の男が。 右から、石田三成殿・加藤清正殿・福島正則殿。秀吉公の子飼だそうだ。 3人とも、なんとも言えぬ顔つきで座っている。・・・それもそうだろうな。


先ほども言ったとおり、私は秀吉公へ文を渡すという任は達した。 が、そこに丁度ねね殿が現れ・・・捕らえられた。 捕らえられたというのは少々語弊があるかも知れないが・・・事実そんな感じだ。 すぐに立ち去ろうとしたんだが、さすがねね殿も忍と言ったところか そう簡単には帰してもらえなかった・・・。

一体何の用かと身構えていれば、「お話しよう!」など言われ・・・ いつのまにやらあの3人がやって来ていて。 「おねね様一人を他国の忍と居させるなんて、できません」と言う始末。 結局、別の部屋に移動して ねね殿・石田殿・加藤殿・福島殿・・・そして私、という面子になった。


・・・で、今に至る。



ねね殿が話すものとは本当に他愛のない話ばかりで、・・・正直困った。 ねね殿の話に共感できないとか、相槌が打てないとかではない。 ・・・その、こういう普通の話を、普通に話したことがないものだから。 後ろの御三方と言えば、なんとも硬い表情で。 でもまあ、それも無理はない。彼らと私は初対面で、私は彼らにとって得たいの知れない他国の忍なのだから。 ねね殿の話の途中で、福島殿が共感したりするぐらいだ。 他の二人もねね殿に話を振られれば喋るが、それ以外は一切口を開かない。


そんな感じで喋りつづけて数刻。 冒頭に戻るわけだが・・・。






「えー?なんで?」

「なんで、とは…その、」

「?かわいいと思うけどなあ、しーちゃん」

「っ、」






そう、これだ。

ねね殿は私のことを、し、しーちゃんを呼ぶ。 それは私の名が「無言(しじま)」なのだからだろうが・・・。> これは・・・恥ずかしすぎる。 なんだか、胸の奥の方がやけにくすぐったい。今、面をしていて良かったと心の底から思っている。 きっと今の私の顔は、忍にあるまじき表情をしているだろうから。

私がやめてほしいと訴えれば、かわいい呼び名だと言う。 ・・・主、助けてください。この場を早々に脱したい。


私が悶々としていると、目の前のねね殿のが急に明るくなる。 明るいというか・・・何かを思いついたような? 私が小首を傾げていると、ねね殿はとんでもない行為に出た。






「ねっ、三成も清正も正則も『しーちゃん』可愛いと思うよねっ?」

「「え」」

「っ?!?!」






一体何を言い出すんだこの御方は・・・!うっかり叫びそうになってしまった・・・!

一体何をしだすのかと思えば、ばっと後ろを振り返り問うねね殿。 いや、「ね?」では無いでしょう・・・!なんでこの空気の流れで、そうなるのですか! ああ、ほら。石田殿も加藤殿も困っている・・・! 福島殿、考え込まないでください!






「ね、可愛いと思うよね?」

「んー、そーっスね!つーか、おねね様がそう言うんならそうです!」

「正則はわかってくれるかぁ。三成と清正は?」

「お、俺は…」

「………」






福島殿!!?そんな笑顔で、言わないでください!そこは、否定しましょう! ねね殿、喜ばないでいただきたい。そして残りの御二方に振らないでいただきたい・・・! そして御二方も、そんなに考え込まないでいただきたい・・・!
ああああ、視線が痛い。 普段、忍である私はこ、こんなに見られたことがない。

こ、これはもう・・・堪えられない。






「〜〜〜〜っ」

「ね、しーちゃ…」

「っ(シュンッ)」

「あ!」






ねね殿の次の言葉が発せられる前に、私は持っている最大限の力を駆使し 脱兎の如く、その場を脱した。

自分でも少し驚いてしまうほどの速さで、私は城を抜け、森を走っていた。 ・・・久しぶりに主と部下以外に、こんなに言葉を交わした気がする。 なんだか、胸の奥の方が変な感じがする。 やけにくすぐったくて、動悸が幾分か・・・早く打っている?


・・・よく分からないが、悪い気はしないのは何故だろう。






「もう、照れ屋さんなんだから」



ねね殿がそう呟いたなんて知る由もなく、私はただ主の元へ急ぐだけだった。






呼び名





「もう、三成に清正!なんであの時、可愛いって言わなかったの?」
「おねね様、そ、それは無理が・・・」
「おねね様、あそこで可愛いと言っていれば、無言自体が可愛いという発言に成りかねません」
「でも、実際可愛いと思っているんでしょ?」
「「・・・!」」
「もー、二人とも!もっと攻めなきゃ駄目だよ!」
「?何の話してるんだよ、二人とも」















※補足
三成と清正は、大分前に夢主が秀吉に文を届けにやって来たときに一目惚れ。
ねねを一人にするのは危ないというのは口実で、本当は夢主と一緒に居たかっただけ。
硬い顔をしていたのは、緊張していたから。ちなみに正則は何とも思っていない(←)



2012.3.19 初up

無双を購入して、すごい勢いでハマったときに書いた拍手。
このシリーズでけっこうネタあるんだけど、書けてません・・・。

2012.8.25