政宗と小十郎が、城へ来日し数刻。


あの後、部屋に幸村と郁を呼び話を進めた。
幸村ははすぐに話を理解してくれたものの…郁は理解するのに少々、いや…多々時間を要した。

まあ、これもの想像範囲内ではあったのだが。



ともかく、各国の主要人物が揃ったとこで話を進めた。

幸村は同意はしてくれたが、自分一人の意思で決めることはできないということで、一旦甲斐へ戻ることになった。
まあ、それもそうだろう。
甲斐の国主は信玄。幸村はあくまでお使い、だ。


対して、政宗・郁は問題はない、と言った。

も小十郎も異存はなく、事は何ら問題もなく進んだのだ。
そして、此度のことを信玄に報告、また、国主同士の顔を合わせようということで、
幸村の帰還に伊達主従、そして天白主従もついていくことになった。手間も省け、一石二鳥ということだ。


で、早速甲斐へ向かおう!と意気込んだものの、辺りはもう薄暗くなっており、日は沈みかかっていた。
時とはこんなにも早いものだったのか、と思い知らされた面々。

結局、明朝皆で甲斐へ向かうということになったのだ。



そして、大方問題は片付いた、ということで…





現在、天木城では宴が開かれていた。






「呑め呑めー!!今宵は無礼講だずぇー!!」

「「「お頭ァ!!!!」」」

「よっ、太っ腹ッ!!」

「それでこそ、出羽の国主!我らがお頭ッ!」

「お前等、呑め!歌え!踊れェ!

「はははははっ」






大広間。

そこには天木城に住む全員が集っていた。
家臣は勿論、一卒兵、斥候、などなど様々な面々が見られた。
酒に酔い、踊り狂うもの。狂うとは少し言い方が大袈裟かもしれないが…
いや、狂うと言っても可笑しくはない。
そのくらい、笑い、歌い、踊っているのだ。

他には仲間と静かに酒を酌み交わす者もいれば、
腹踊りまでし、周りの者を笑わせる者、
またその者の周りで、歌い、合いの手をする者。

様々な人々が、それぞれで楽しんでいた。




今回の宴。 面目では、「三国同盟仮成立&伊達主従歓迎祝い」なのだが…

まあ、ぶっちゃけそれは面目。というか、建前のようなもの。
実際は、皆が皆、呑んで騒ぎたいだけ。


天白軍は、そういうものなのだ。


また、その大将…郁も然り。

元々、お祭り体質な郁。祝い事があるのならば、なおさらである。
嬉しいことが立て続きで、そのテンションはあがってゆく。
そして、乗りに乗り、テンションが最高潮になった郁が宴を催したのだ。

また、これは天白軍、いや出羽にとって嬉々とした出来事である。
ということで、全員参加の無礼講宴となったのだ。
無論、民たちには言っていないが…。
信玄のもとへ行き、本当に三国同盟が成立した暁には…

出羽国をあげての大祭となることだろう。




まあ、そんなこんなで今現在、大広間はどんちゃん騒ぎなのである。

大将である郁も家臣に混ざり、酒を飲み、騒いでいる。
一応、国主であると共に殿…のはずでもあるのだが。

まあ、郁がそんなことを自覚しているとも思えないところが事実。



そして、そんな主の姿を見やり苦笑をもらす






「ふ…これは今夜も残業かな…」

「Don't mind.」

「…他人事に思えねえな…」






は盃を傾け、その中の液体を喉に送り込む。
喉を通ると共に、少し熱いものを感じる。まだ慣れないその感覚に、は目を細める。


そして、そんなに声をかけたは言わずもがな、政宗と小十郎である。
呑気に励ましの声をかける政宗に対して、
小十郎は酷く親近感に近いものを覚えたとか、そうでないとか。



現在、は大広間でも隅の方へ座している。

隅といっても、大広間の真中…奥の中心とでも言えばいいのだろうか、
全体を見渡せる位置にある玉座。もとい、郁の座席。

そして、宰相であるは、その少し右前…に座しているというわけだ。


客人である政宗、小十郎はその隣に座っているのだ。
(因みに幸村は、反対側の左前に座している)



豪勢な料理はすっかり姿を消し、皆々の前には空になった皿と…透明に透き通った酒のある盃。
今は完全、酒の席になっているということである。



そして言わずもがな、も政宗も小十郎も酒を呑んでいる。

補佐という立場に立つと小十郎は最初、酒を呑む事を頑なとして拒否していたが、
郁の「無礼講だずぇ」という言葉と、政宗の強い押しで、今呑んでいるわけだ。


政宗も小十郎も呑み慣れているのか、その盃には次々と酒が注がれる。
その速さは…尋常ではない。
二人とも、普段の疲れがあったのか…その手には次々と酒が。
それを見ているだけで、は充分であった。


酒を次々と呑む伊達主従に対し、の手は進んでいない。まだ一杯目の途中でもある。
あまり酒は好かないのだ。というか、どうも苦手、らしい。
体が、というか心があまり受け付けない。



そんなを見て、少し不満そうに政宗が眉をひそめる。






「Ah-n?アンタ、全然呑んでねえじゃねえか」

「…どうも酒は苦手でして」

「まあ、人には好き嫌いがあるしな。あまり無理はしない方がいいだろう」

「…無論、そうさせて頂きますよ…、と」






小十郎に言われ、盃から手を離す。
また、それを見やり不満そうに溜息を漏らすは政宗。
それを見るところ、どうやらと酒を酌み交わしたかったのだろう。

だが、突如目を光らせる。
そしてあの笑みを浮かばせるのだが…妖しいとしか言いようがない。






「Ah-…ってことはよ、アンタAlcoholが駄目なんだよな?」

「まあ、そういうことになりますね」

「OKOK!」

「…政宗様…」

「Ah?小十郎なんだ?Oh,俺は幸村に呼ばれてるからよ!」

「っ!政宗様!!…全く、あの御方は…」






に酒が駄目なんだな?と確認を取り、そうだと聞けば、それはそれは満面の笑みになった政宗。
まあ、大変よろしくない笑みなのだが。

大方、酒に弱いに何らかの手段で呑ませ
酔わせ弱らせ、弄り倒す…というのが目的であろう
、とは心中呆れかえる。



そんなの心中など知る由もなく、政宗の顔のニヤつきは、留まることなど知らない。
一国の主が、こんな様でいいのだろうか。いや、よくないはずである。


そして、小十郎に何とも言えない視線を遅れられれば
幸村に呼ばれているといって、すぐさま立ちあがりその場を去っていってしまった。
その速さといったら、コンマ1秒もかからなかったのではないか。
口実に過ぎないとは思ったのだが、幸村に呼ばれたのは事実のようだ。


幸村のもとに駆けより、すぐさま飲み比べを始める政宗。
幸村も相当乗り気なようで、そのペースは凄まじい。
また誰も止めることなどせず、騒ぎは収まる様子を見せない。


そんな我が主に、深い深い溜息をつく小十郎。
眉間に皺を寄せ、「行く末が心配だ…」とでも物語っているかのよう。
そして、そんな小十郎にやけに親近感がわくであった。



そこでふと、小十郎に声をかけられる。






「天木城…出羽はいつもこんな感じなのか」

「いや、流石にいつもこの調子だと困りますが…大方こんな感じですかね」

「そうなのか?」

「こう、明るい雰囲気とか…和気藹々としたのは何時もですよ」






そうなのだ。
大方、天木城はこのような雰囲気である。

どんちゃん騒ぎまでは行かなくとも、皆が笑顔で和気藹々としてることは言える。
お互いが気がね無く話し、ぎすぎすなどしていない。また、郁の性格からもあるのか家臣は郁を恐れない。
いや、恐れないが…畏れてはいる。


簡潔に言えば…尊敬をしてる。


こう、恐怖という感情は持っていないし、決してなめてる訳でもないのだ。
皆、心から尊敬しているし信頼もしているのだ。

郁は恐怖支配など、絶対しない。
自分で皆を説き、自分の決意についてきてくれる家臣を心から信頼する。
その信頼によって、家臣も郁を信頼する。
当然、絆ができるわけである。

あの徳川家康も、出羽の絆はいい、といったのだ。



と、少し脱線してしまったが
とにもかくにも、皆が自分らしく生きる事ができ、賑やかなのである。天木城は。
もちろん、町も然り。出羽全体がそうなっている。



の言葉を聞き、最初は目を見開いた小十郎だが…話を聞くうちに、その顔は穏やかのものになり
薄い笑みを浮かべ、言葉を紡ぐ。






「そうか。…いい国だな」

「ふふ、恐縮です」

「だが、まあ…奥州も負けてねえ」

「それは重々。一度、自分も奥州へ行って見たいものです。」

「おう、歓迎するぜ。いつでも来い」






そうに告げる顔は、滅多に見せない笑顔で流石のも不意打ちを食らった。
若干、染まる頬を手で被い隠し「…お願い致しますよ」と答えるだけで精一杯だった。

幸い、小十郎はその様子に気づいていないようで盃を傾け、その酒を口に含む。

まだ顔を見る限り素面だ…。
一体、この人はどれだけ酒に強いのだ、とが思ったのは言うまでもない。


何口か口に含み、盃が空になる。
その様子を見、は手元にあった御猪口を手にとる。






「右目殿、おつぎしましょうか?」






その一言に、小十郎は一瞬、瞳を酷く揺らしたが…すぐさま、「ああ、頼む」という。






とくとくとく。


透明な液状。酒が小十郎の盃に注がれる。
は片手で酒をついでおり、決して上品なものとはいえないが…
何故か小十郎には、綺麗に見えた。

綺麗、というよりも様になってみえる…とでもいえばいいのだろうか。



近づいて見て初めて分かったのだが、

の睫毛は存外長い。瞬きをするたびに、その長い睫毛が震える。
唇は先刻酒を含んだからか、幾らか潤って見えており
その頬は、酒のせいか、はたまた部屋の熱気のせいか。
僅かに、ほんの僅かではあったものの、桃色に上気していた。
またそれが、色っぽく。艶やかにも見てとれる。
着物から見え隠れする、白い肌。鎖骨。
ふわふわとした、茶色気の混じった黒髪。


つい、小十郎がに見入っていたのは…言うまでもないだろう。



そして、当然はその視線に気づくわけで






「?右目殿、私の顔に何かついておりますか?」

「っ、あぁっ?!な、何でもねえ」

「そうですか。あ、お酒つぎ終わりましたよ」

「あ?おお、かたじけねえな」

「いえいえ」






の言葉が耳に入り、はっと我に返る。
気づけば盃にはたぷたぷと、酒がつがれていた。

そして、今までの自分の思考を消し去ろうと、酒をぐいっと一気に飲み干す。


それを見て、





「右目殿、酒はいいですがあまり無理はなさらないでください」





と苦笑するに、また唖然とさせられたのは別の話。







どんちゃんどんちゃん。

灯る燭。
流れる歌、音楽。響き渡るは、人々の陽気な声。

月は白く光り、黒い闇に浮かぶ。
月明かりに照らされる天木城は、陽気な衣に包まれる。



宴はまだ、終わらない。











〜第11幕へ〜



(佐助サン、酒呑まねーの?)
(あー、俺様はいいや。ってか、忍だし呑めないでしょ)
(ん?今宵は無礼講。身分なんて関係ないよ)
(はあ?いや、でも)
(俺ンとこのお頭がそう言ってるんだよ。遠慮せず、呑め呑めー
(いや、でもね、俺様としては気が抜けないわけ)
(ふーん…大変だな)
いやいや、あんたもでしょーが
(俺は珀に任せてるから、だいじょーぶ)


(…宴が終わったら、残業か…)
(…その、殿。俺でよかったら手伝うが…)
(お気持ちだけで、凄く嬉しいですよ右目殿)















おおおおおお、久しぶりすぎる更新です(゚д゚`;;;)
やっと夢の雰囲気を出してきた・・・の、か?
それにしても誰落ちになるんだろう・・・わかんない←




2012.5.19